うたた寝で見る夢は

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だいたいの女は柊晴を好きになった。女に限らず。 明るい性格に、ちょうどいいくらいのいい加減さ。まあ魅力的な奴だ。 彼女を店に連れてくるのは珍しい。 ……柊晴と同じ様に、華やかな女性だった。 「牧野春香です。柊晴くんの同級生です」 「あ、こっちは京也ね。京也は俺の高校の同級生。彼女いないはず。春香も彼氏いないはず」 ……柊晴の彼女じゃないのか。 「宜しくね、春香ちゃん」 「あ、はい。宜しく、お願い、します」 春香からの好意は単純に嬉しかった。可愛い子だなって思ったし。 だけど、いつもそうだ。最初は向こうから寄ってくる。一緒にいられたらそれでいいなんて…… やがて、店に時間を取られる俺に文句を言うようになり“結婚”を考えるようになると 路地裏の喫茶店なんて……と、俺の職業に不満を漏らし、去っていく。 いずれこの子も離れて行くだろう ここは、先祖代々、古くから残る喫茶店で経済界の大物や、大手の創立者が一息着く為に足を運んでくれた。静かな時間を楽しむ為に。 ちょっとした歴史ある話や思い出を聞くことが出来る。俺はここをとても気に入っていた。 だから、父は継がなかったここを祖父から継いだのだ。 「ここに来ると会いたい人に会える」 なぜか、みんながそう言う。 この空間を愛してくれた。 俺には大切な居場所で、この職業を誇りに思っていた。 ……それに、想像よりずっと収入はある。 それを伝えたら引き止められたのかもしれないが、そんなことに左右される愛などいらなかった。 春香はいつまでも“俺の職業”に文句も言わなかったし ずっと“素敵ね”そう言っていた。 それに疑いを持ったのは俺だった。
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