43.未来へ

9/10
前へ
/440ページ
次へ
「じゃあ、もう香水もダメになるな。今はまだ大丈夫か? 」 「ええ、大丈夫そうよ」  柊晴が持ってきたアリュールを瓶の外から嗅いだ。  やっぱりこの、香り……切なくなるような、愛しくなるような……優しい気持ちになれる。本当に“魅惑的” 「この香り、本当に好き」 「うん、光がそう言ったから買ったんだ。元々好きな香りなんじゃないか? 」  柊晴はそう言った。脳は記憶を失ったけれど私はこの香りを知っている。鮮やかに蘇る、愛しい感情。目の前の彼を見た時にだけ感じる、この感情。私は柊晴を愛していた。そう気づかせてくれる。それが私の記憶。  元々好きな香り、それを柊晴がもっともっと好きにさせてくれた。  私の失くした、時が記された手帳。罫線だけのページには“仲村柊晴”彼の字でそう書かれていた。男らしい、彼らしい字。  懐かしい。そう思うのは、いつの記憶?  手帳を閉じて、あの引き出しに入れた。そこにはエンゲージリングと出せなかった婚姻届。アリュールの瓶が2本。そこにエタニティの瓶も並べ、シルバーのアトマイザーも入っている。  失くした記憶も……今は宝物。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2193人が本棚に入れています
本棚に追加