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「じゃあ、もう香水もダメになるな。今はまだ大丈夫か? 」
「ええ、大丈夫そうよ」
柊晴が持ってきたアリュールを瓶の外から嗅いだ。
やっぱりこの、香り……切なくなるような、愛しくなるような……優しい気持ちになれる。本当に“魅惑的”
「この香り、本当に好き」
「うん、光がそう言ったから買ったんだ。元々好きな香りなんじゃないか? 」
柊晴はそう言った。脳は記憶を失ったけれど私はこの香りを知っている。鮮やかに蘇る、愛しい感情。目の前の彼を見た時にだけ感じる、この感情。私は柊晴を愛していた。そう気づかせてくれる。それが私の記憶。
元々好きな香り、それを柊晴がもっともっと好きにさせてくれた。
私の失くした、時が記された手帳。罫線だけのページには“仲村柊晴”彼の字でそう書かれていた。男らしい、彼らしい字。
懐かしい。そう思うのは、いつの記憶?
手帳を閉じて、あの引き出しに入れた。そこにはエンゲージリングと出せなかった婚姻届。アリュールの瓶が2本。そこにエタニティの瓶も並べ、シルバーのアトマイザーも入っている。
失くした記憶も……今は宝物。
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