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「春香に報告したら、泣いて喜ぶんじゃないか? 」
私のお腹に手を当てて、散々泣いて喜んだ後で、柊晴がそう言った。
「……そうね……あなたほどじゃあないでしょうけどね」
──
初めて心拍が確認された日。人っぽい形になった日。
柊晴は病院に行く度に泣いて喜んだ。内診台にまで付き添おうとして、毎回止められては不服そうな柊晴に笑う。
先生のモニターまで写真を撮らせて貰って、恥ずかしい思いはしたけれど……外での仕事も、家事も、全部してくれている。柊晴は完璧な夫だ。
間違いなく、甘々な父親になると思うけれど。私以上にマメに私の身内と連絡を取っている。私以上にマメに私の友達と連絡を取っている。
柊晴がいてくれて良かった。それは、お腹が大きくなってきて動き難いからだけじゃない。
ずっと、ずっと……隣にいてくれた。
「ありがとう、柊晴」
「いや、楽しい」
私に着圧ソックスを履かせながら柊晴はそう言った。
「もう一枚」
その上から、暖かい靴下を履かせてくれた。
「滑って転んで頭打ったら大変だ。あ、腹打っても駄目だな。転けるなよ」
どこで見つけて来たのか、滑り止めのついた靴下に……私の見た目はどんどん悪くなるけれど、彼は変わらず
「可愛い」そう言ってくれる。
「デベソ、可愛い」
………
まぁ、いいか。私のお腹に耳を当てて幸せそうに見上げる。
ああ、“幸せそう”じゃなくて“幸せ”だな。柊晴の髪を撫でて上にあげた。可愛いですよ、あなたも。あの時から、ずっと。
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