多角的視点

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多角的視点

ヒトミとは、毎日連絡をするようになっていた。 あれから何度か、色々な所へ一緒に行った。 レイナのことを、考えなかったわけではない。 きっと彼女のことは、好きなんだ。 だが、だから戻りたい、とはもうならなかった。 好きだからこそ、彼女が好きな人と結ばれると良い。 きっとそうなってほしい。 やっと、本気でそう思えるようになっていた。 あと3週間ほどで、クリスマスだ。 駅前はカップルで溢れるだろう。 やはり、ヒトミから「クリスマスイブは暇?」と連絡が来た。 レイナのことを、考えなかったわけではない。 あいにく暇なもんで、どこかへ行く約束をした。 冬で寒いというのに、バイクでまたどこか行きたいだなんて、相当なバイク好きなんだなと。 そう思う自分は、呆れているようにも思えたし、それは尊敬心のような気もした。 せっかくクリスマスに遊ぶのだから、何かしらプレゼントでも買った方が良いか。 レイナのことを、考えなかったわけではない。 プレゼントを買おうと思い立ち、でも何が良いかわからず、なんとなくこういう時はインスタグラムで調べてみるかと思い立った。 インスタを開くと…一番上で、レイナが俺が知っている男とともにこちらを見てポーズをとって笑っていた。 「…大山っ」 同じ高校だった、大山 風雅(おおやま ふうが)。 バスケットボール部で、顔は整っていたから、女子からかなり人気があった。 その男が…レイナの好きな人か…。 実を言うと…薄々感づいてはいた。 たまにレイナのSNSに映っているのは見た。 何度かレイナと遊びに行っていた時、バイトが一緒だと言うことを聞いた。 そっか…。 まぁ、今更なんだ。 何も状況は変わっていない。 むしろ、レイナがうまく行っているなら良かったじゃないか。 …でも…。 「調子乗んなよブス!!!」 学校から帰ってしばらくしてから、智樹は明日提出の課題を忘れたことに気づき、学校に戻り、校舎内に入った。 校舎内の電気は消されていた。 わざわざ点けるのもめんどくさく、暗い中目を凝らしながら歩いた。 その時、あまりの罵声に振り向くと、大山がその時付き合っていた女に暴力を振るっていたのが見えた。 他に誰もいないであろう、学校の中で。 そのまま彼女はどこかに引きずられて行った。 ただ事ではないと後を追いかけたが、すぐに見失い、気配もなくなってしまった。 彼は、いわゆるDV男だ。 女の前では、初めは優しさと笑顔を振りまく。 ある程度親しくなった時…彼は豹変する。 「昨日も殴ってたみたいだ…。声をかけたけど、すぐ女連れて逃げてった」 部活動終わりに校舎内に入った友達から、そう聞いた。 一度だけじゃない…。 「顔は殴らないんだ。服着たら見えなくなる、腹とか背中とか…」 「まず教師に言うべきだよな…」 俺は数人とそれをしたのだが、なぜか俺が入学した翌年から定員割れが続き、治安の悪い連中が入学してきて以来、荒れまくっていた学校は、まじめに取り合ってくれなかった。 しばらくして、すっかり彼の暴力を聞かなくなった。 もしかしたら、教師が何か動いてくれたのかもしれない。 だがどうも気になり、余計なお世話だろうと思いながらも、その件からすぐ別れた大山の元カノと少し仲良くなり、大山のことを聞いた。 「殴られてたの、見たんだけど。何があったんだ?」 「…ううん。なんでもないよ。私が悪いことしちゃっただけだから…」 そう言う彼女の目は怯えていた。 「あいつ信頼されてねぇや。つるんでるやつが色々話してた」 同じクラスだった友達が、そう言った。 「まぁよくある、ヤらせろヤらせないって話だ」 「…なるほどな。それで気にくわない返事したら殴ると…」 だが、今俺が確認できる範囲で、もう暴力はふるっていない。 きっと、だいぶ噂が露わになってきたから、あからさまにやらなくなったのだろう。 そもそも、そんな噂がある男と、女が2人きりになろうとしなかった。 まぁ…そもそも俺は関係ないことだ…。 俺の女に手を出されれば話は別だが…、今はまぁ、何もないなら、どうしようと言うこともないか。 その大山が…レイナの隣で微笑んでいる。 写真の中の大山は、まるで女を殴ったことがないように、どこにも悪びれを感じさせない目をしていた。 この男が…同級生の女を殴った…。 なら、レイナは? 無事なのだろうか…。 本当に、大山が改心したとは、思えなかった。 殴られてないだろうか…。 苦しんでいないだろうか…。 犯されていないだろうか…。 でも、もう関係ないんだ。 大山の女はレイナであり、それを選んだのはレイナ自身だ。 外野がどうこう言う資格はない。 でも、1つ、レイナに知っておいて欲しかった。 俺は…君が惚れた男の、君の知らない本当の姿を知っている。 どうか、改心していてくれ。 苦しませないでくれ。 ロクに頭が働かず、すっかりヒトミへのプレゼントを考えることが出来なくなっていた。 どうすれば良いか、と問われても、どうすることも出来なかった。 彼女にそれを伝えるか? 今のレイナが、「関係のない 」俺にそんなことを言われたところで、聞くわけがない。 俺の女に、手を出されるわけじゃない…。 俺はお呼ばれしていない。 画面越しに見るレイナの笑顔は、あの時見た、楽しそうな笑顔だった。 彼女が今、幸せなのだとしたら…それで良いだろう。 きっと本当の笑顔だろう。 なら良いんだ。 いつまでも考えてても仕方がない。 諦めよう。ヒトミへのプレゼントを探さなければ。 俺は、無理矢理レイナのことを考えることをやめることを考えた。 次第に、落ち着くことが出来た。 クリスマス、ヒトミをどこに連れて行ってやるか。
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