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「ああ、手のひらに乗るこの感覚……。最高っ!!」
「ははは………」
感激しているらしい母は、涙目でこちらを見ている。
「ゆめ、お母さんの子に生まれてきてくれてありがとうね〜」
すりすりと頬を寄せてくる。
もうなんてコメントすれば良いのか分からない。
「お母さん、そのくらいにしといたら?」
呆れた声で、姉の風香が止めてきた。
ありがとう、お姉ちゃん、救世主…。
──と思ったら
「次はわたしの番!」
今度は姉の手に乗せられる。
「はい、クッキー」
しかも、おやつ付きで。
小さくなった両手でクッキーを抱えて食べる。
甘いバタークッキーの香りが鼻をくすぐる。
「や〜ん、食べてる姿もキュート!」
このやり取り、今までに何回繰り返されたのだろう。
もう、諦めてじっとしているしかないな
──ガチャッ
「あれ、何してるの?」
「決まってるじゃない。ゆめを愛でてるのよ」
「あ〜! ゆめ姉、帰ってたんだ。おかえり〜。ってか、姉ちゃん、ゆめ姉を独り占め禁止!」
「翔、どこにいたの?」
「トイレ」
弟の翔は、そう言うと姉の手から私を奪って、椅子の上に乗せてくれた。
「ありがとう、翔」
「あ」
お礼を言ったとき、ちょうど体が元に戻った。
「もう15分経ったの?」
「そうみたい」
「おれもゆめ姉を愛でる会に参加したかったな」
残念そうに言う弟は、名残惜しそうな瞳で私を見ている。
…良かった、元に戻って。
体が小さくなっても、15分経てば元の大きさに戻る。
だから、もし学校で体が縮んだのが休み時間内だったら、授業に少し遅れれば良いだけなんだ。
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