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くしゃみは厳禁?な女の子
「ただいま〜」
玄関のドアを開けると、タオルが浮いていた。
「あ、おかえり。雨降ってきたでしょ? 濡れてるだろうから、タオルで拭いてね」
廊下へと顔を出したお姉ちゃんが手を振ると、タオルは私の手へと落ちてきた。
「あ、ありがとう。お姉ちゃん…」
傘持ってなかったの知ってるんだね。
ありがたく少しだけ濡れた髪と腕をタオルで拭いて、洗面所へと向かう。
タオルを洗濯機に放り込み、自分の部屋に行こうとしたら、リビングの戸が開いた。
「おかえり、ゆめ。天気予報外れたわね〜。雨が降るなんて」
「本当だよ、お母さん」
「ゆめに傘を持って行ったんだけど、フフ、男の子と一緒だったからお母さん、遠慮しちゃったわ〜」
ゆったりとした口調でフフフフ、と不気味に笑う母。
「そ、そうなんだ。それは良かったよ」
「そうね。だって、いきなり傘が手にあったら、彼はきっと驚いたでしょう? せっかく時間を止めたのに、意味無かったわね〜」
「ハハハハ……」
乾いた笑いしか出てこない。
しかも、男の子と一緒だから遠慮したと言うけど、アレは、その、たまたまで。
一緒に帰る日もあるけど、今日は本当に偶然だったんだよ、母よ……。
「しかも、三神くん、折りたたみ傘持ってるし……。私は先に帰ってたのに、わざわざ走って来るしさ。申し訳なくて……」
「何の話?」
「ううん、こっちの話。結局、三神くん家まで送ってくれたんだよ。いい人だよね」
「そうなの? いい子なのね〜」
本当にその通りです。
明日、お礼言わなきゃな──。
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