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 “ファティマ女王国家”――。  そこは、遥か古の時代より存在する歴史根深い国であり、かつて“エレン王国”と呼称されていた中央大陸南部を領土とする大国である。  いつの頃からか、代々女王が統治する女王国家として国を再起し、その国の女王の娘が時期王位を継承するのが慣わしとなっていた。  そんなファティマ女王国家にある、女王を守護する親衛隊である『女王騎士』と呼ばれる有能な騎士たちだけが足を踏み入れることの許された詰め所でのことだった。 「“豊穣祈願大祭(マナ・ファッシング)”……?」  女王騎士の詰め所。そこで手渡された紙――、ある宣伝チラシを目にした少年が不思議げに声を漏らした。  小首を傾げてチラシを眺めるのは、ファティマ女王国家の第一王子――、アシュレイ・ファティマ。(よわい)十六歳の、スラリとした華奢な印象を抱かせる少年である。毛先へ向けて灰色から黒色の濃淡を彩る銀髪は、腰までの三つ編みに結われる。チラシを見つめる双眸は碧色と金糸雀(かなりあ)色のオッドアイ。  このアシュレイの見目は、ファティマ女王国家の王族――、“ファティマ一族”しか持たない風貌で、彼の母親である女王マリアも妹姫であるイリアリアも同様の特徴を有している。謂わば、王族の証ともいえるものだ。  但し、アシュレイは第一王子という立場にありながら、王位継承権が存在しない。ファティマ女王国家が女性が王位を継承する国であり、その国に男として生まれてしまったためである。  その代わりに、女王の男兄弟に当たる者は大抵が女王騎士の職に就き、女王を守る立場に座すことが決められていた。  アシュレイも例に漏れず、将来的には時期女王となる妹のイリアリアを守る女王騎士を取り纏める騎士団長の任に就く――、ということが確約されている。  今は未だ騎士の叙階(じょかい)も受けていない未熟な身なれど、時期女王騎士団長という責務に立つ自覚を持ち、アシュレイは自己鍛錬にも余念がない。  そのため、戦略訓練も兼ね、女王騎士の詰め所にアシュレイは訪れていた。  そうしたアシュレイに手渡された一枚のチラシは――、彼の碧色と金糸雀(かなりあ)色の双眸を瞬かせていた。
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