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第2話
「先輩……俺たち付き合ってますよね? 俺の勘違いじゃないっすよね?」
周りに人がいないのを見計らって、アラタが耳元で言ってきた。
「なんでそんなこと」
「だって先輩……」
拗ねた表情で顔を覗き込まれ、ドキッとする。
「いや、時間作れないのは悪いと思ってるよ? そのうち埋め合わせするから、ね?」
「そのうちっていつ?」
「卒論が終わったらいつでも」
僕の答えに、アラタがきらりと瞳を輝かせた。
「じゃ、正月休み、どっか行きませんか!? 俺、先輩と一緒に旅行行きたいなーって思ってたんスよ!」
「あー……それは」
まずいことを思い出し、僕は思わず口ごもる。
「……え、なんですか?」
「いや、正月休みはゼミの友達と……。ほら! みんな卒論頑張ってるからさ、終わったらみんなで温泉行こうぜって話になって……」
話す僕を見ている、アラタの表情がみるみる固まっていく。
「先輩……俺との約束覚えてないんですか?」
「えっ、約束って?」
正月休みの約束をした覚えはなかった。
困惑する僕に、アラタは黒いオーラを放ちながら言ってくる。
「正月、俺以外と旅行とか……あり得ません!」
「そう言われても、僕にも付き合いってものがあるんだし……」
そこでアラタが何か思いついたように、キラリと瞳を光らせた。
「先輩のゼミの友達って、伊藤さんと加藤さんですよね?」
「そうだけど……」
ゼミの友達には以前、アラタをバイト先の後輩として紹介している。
「どうしても行くっていうなら……その旅行、俺もついていきます」
「でも……卒論のお疲れさま会に、2年のアラタが来るのは……」
「……先輩、俺は先輩のなんですか?」
「それは……」
周りに人がいないのを確認し、僕はドキドキしながら告げる。
「か、か……彼氏です……」
「だったら、分かってますね?」
「は、ハイ……」
有無を言わさぬ気配に押され、僕は曖昧に頷くしかなかった。
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