【傘が取り持つ仲】

3/6
前へ
/6ページ
次へ
* 10分程だったと思います。ようやく話し合いがついたようです。 男性は仏頂面で、私にサイズを測らせてくれました。 「私の娘の結婚式なの」 その様子を嬉しそうに見ながら、若い女性がおっしゃいます。 「娘さん……ですか」 女性は美魔女というものでしょうか、とても結婚するような年齢がお子さんがいるようには……。 「15で産んだ子なのよ」 私の表情でも読んだのでしょうか、女性はあっさりとそう言いました。 「──15」 思わずつぶやきました、サイズを書きこもうと手に取ろうとしたボールペンが、零れ落ちました。 女性はうふふ、と笑います。 「中学生じゃないからね、高校生になってたわよ」 恐らく私の反応など慣れたものなのでしょう、説明をしてくれました。 「相手は30歳の公務員、とは言えこの両親は大反対。そりゃそうよね、やっと始まった高校生活が妊婦生活になっちゃって、結婚できる年齢でもないんだもん。そりゃ堕ろせ、別れろの大合唱で、私は彼の元に逃げ込んだの。彼も結婚する気はあったから、そのまま駆け落ちして。ああ、逃げた訳じゃないから駆け落ちじゃないのか」 言い慣れた文言なのでしょう、さらさらと教えてくださいます。 私の頭上で、男性の溜息が聞こえました。 「3年後にもうひとり子供も生まれてね。結婚もできて、私は幸せだった。なのに──彼、死んじゃったの。私、二十歳で未亡人」 思わず男性の体を測る手が止まりました、でも彼女の言葉に悲壮感はありません。 「もう、しょうがないじゃん。必死になって働いて、資格も取りまくって、頑張って働いた。親は頼れないと思って、本当にひとりで歯を食いしばって……でもね、やっぱ神様っているよ。ドーナツのお店を始めたら、それが大当たりだったの。私、今や社長さんなのよ」 「それはすごいですね」 私はあまりスイーツに興味がないので、名刺をいただいてもピンと来ませんでしたが……後に検索してみたら、全国展開までしている企業でした。 お名前は、槇田友恵(まきた・ともえ)とありました。 「なのに、親は認めてくれなかった。ずっと逢えなかったの」 そんな言葉に、老いた女性は俯き、男性は小さな咳ばらいをします。 「ご飯でも、って誘っても忙しいって。旅行でもって言っても、そんな暇あるかって……でも、今度は娘の結婚式だから。それには何としてでも出て欲しいと思った、たとえ憎い相手の娘でも、お父さん達には孫で、娘にしたらおじいちゃんとおばあちゃんなんだもん。この機会を逃したら、本当に一生会う機会がないと思ったの。殴られても、水を掛けられてもいいから、娘たちを連れて、頭を下げに行ったの」 途端に槇田様の声に涙が滲みました。重なって鼻をすする音も二重に聞こえます。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加