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10分程だったと思います。ようやく話し合いがついたようです。
男性は仏頂面で、私にサイズを測らせてくれました。
「私の娘の結婚式なの」
その様子を嬉しそうに見ながら、若い女性がおっしゃいます。
「娘さん……ですか」
女性は美魔女というものでしょうか、とても結婚するような年齢がお子さんがいるようには……。
「15で産んだ子なのよ」
私の表情でも読んだのでしょうか、女性はあっさりとそう言いました。
「──15」
思わずつぶやきました、サイズを書きこもうと手に取ろうとしたボールペンが、零れ落ちました。
女性はうふふ、と笑います。
「中学生じゃないからね、高校生になってたわよ」
恐らく私の反応など慣れたものなのでしょう、説明をしてくれました。
「相手は30歳の公務員、とは言えこの両親は大反対。そりゃそうよね、やっと始まった高校生活が妊婦生活になっちゃって、結婚できる年齢でもないんだもん。そりゃ堕ろせ、別れろの大合唱で、私は彼の元に逃げ込んだの。彼も結婚する気はあったから、そのまま駆け落ちして。ああ、逃げた訳じゃないから駆け落ちじゃないのか」
言い慣れた文言なのでしょう、さらさらと教えてくださいます。
私の頭上で、男性の溜息が聞こえました。
「3年後にもうひとり子供も生まれてね。結婚もできて、私は幸せだった。なのに──彼、死んじゃったの。私、二十歳で未亡人」
思わず男性の体を測る手が止まりました、でも彼女の言葉に悲壮感はありません。
「もう、しょうがないじゃん。必死になって働いて、資格も取りまくって、頑張って働いた。親は頼れないと思って、本当にひとりで歯を食いしばって……でもね、やっぱ神様っているよ。ドーナツのお店を始めたら、それが大当たりだったの。私、今や社長さんなのよ」
「それはすごいですね」
私はあまりスイーツに興味がないので、名刺をいただいてもピンと来ませんでしたが……後に検索してみたら、全国展開までしている企業でした。
お名前は、槇田友恵とありました。
「なのに、親は認めてくれなかった。ずっと逢えなかったの」
そんな言葉に、老いた女性は俯き、男性は小さな咳ばらいをします。
「ご飯でも、って誘っても忙しいって。旅行でもって言っても、そんな暇あるかって……でも、今度は娘の結婚式だから。それには何としてでも出て欲しいと思った、たとえ憎い相手の娘でも、お父さん達には孫で、娘にしたらおじいちゃんとおばあちゃんなんだもん。この機会を逃したら、本当に一生会う機会がないと思ったの。殴られても、水を掛けられてもいいから、娘たちを連れて、頭を下げに行ったの」
途端に槇田様の声に涙が滲みました。重なって鼻をすする音も二重に聞こえます。
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