【傘が取り持つ仲】

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「それでも父は認めてはくれなかった。娘たちの前で主人の悪口を並べ立ててねえ……もう死んだ人、しかも父はろくに知らない相手なのに……ってムカついてさ、私も怒鳴り返して」 その様子を思い出したのか、途端にくすくすと笑い出します。 私はそっとお父様の顔を見ました、歯を食いしばっています、きっと娘をそんな形で取られたことが悔しく仕方なくてそのような態度になってしまったのでしょう、でもそれをとても悔いていると判りました。 そして、とても意地っ張りな方なのだとも。 「初めてだったね、あんなに喧嘩したの」 槇田様の声に、お父様の返事は「ふん」でした。 「結婚式に親族が少なすぎるから、とりあえず来てくれって頼んだんだけど、父がああだこうだといちゃもんつけるから、文句をひとつずつ片付けてやることにしたの。そのひとつが、礼服作り」 微笑みながら言った槇田様が、不意に声のトーンを落としました。 「──贈り物も、してあげたことなかったから」 小さな声でしたが、その声はお父様の耳にも届いたようです。私の目の前で、拳がぎゅっと握られました。 ご注文は立派な燕尾服です。今時はレンタルも多いでしょう、それを贈り物になさるとは、槇田様も思い切った事をします。 お母様のご注文はイブニングドレスです、せっかくなので、お孫さんのお色直しでご自分も一緒に着替えるのだと喜んでおっしゃってました。こちらは既に槇田様をお許しになられたのでしょう。 だって。シングルマザーになっても、ご実家に頼ることなくお子様二人を育て上げ、社長までされているのです。何の文句があるのでしょう。 立派な、自慢できる人生です。しかしそれを鼻に掛けようとは思っていない槇田様はとても素敵な女性なのだと判ります。 そんな女性にお育てになったご両親もまた、素敵な方々なのでしょう。
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