星見茶会

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星見茶会

 山に至る坂道を自転車で登り、道の脇の小さな駐車場に自転車を置いて登山道に入る。  星明かりだけが仄かに足元を照らす。  自宅を出、ここまで自転車と徒歩で十分程度。  途中、登山道が上と右に分かれている。そこで携帯電話を起動。明るさを最低にしていても眩しい。  闇に慣れた目に飛び込んできた数字は午前二時五十九分を示していた。  いつも通りの時間だ。思い、右の道を進む。  そこは、ベンチが一つ置かれただけの、広くも狭くもない休憩スペース。そのベンチに私を呼び出した人物が座っている。 「遥香」 「あ、真白! 遅ーい!」 「いつも通りの時間だよ。ほら、三時ぴったり」 「間に合ってはいるんだけどぉ……」  何度も繰り返したやり取りをし、笑い合い、遥香の隣に座る。  遥香から連絡があったのは昨日の午後八時、会う約束はその七時間後である今日の午前三時。  連絡はともかく、会って話すには遅い時間だと言われたことがあるが、これが私達の普通だ。 「はい、これ」 「ありがと」  手渡されたのは小さな青いプラスチックのコップ。遥香が水筒を取り、私のコップに、次いで自分の赤いコップに中のものを注ぐ。  ふわり、苦さを孕んだ甘酸っぱい香り。 「今日はレモンティーなんだね。結構好き」 「でしょ? この前のが好評っぽかったから、また作ってきたんだ~」  香りを運ぶ湯気を、ふうっ、と吹き払い、コップを浅く傾ける。唇で軽く触れ、レモンティーを吸う。まだ少し熱い。飲み込んだ微量のレモンティーが、香りを鼻腔に送り、粘り気のある甘さを舌に残した。  堪能。そして、訪れる沈黙。  沈黙と言っても、話題を欠いた気不味さや別れを急かす圧力などの居心地の悪いものではない。  明るい闇の中、複雑な日常から離れて二人で茶を楽しむ。それを噛み締めるための長い沈黙だ。与えた役割はそれだけに留まらない。  仰げば、視界に収まりきらない程の星たちが夜空を埋めている。瞬きに際し、擦れ合う音が聞こえる。 「…………あのさ」  沈黙と静寂が、遥香に発言を促した。  茶会の結びは空の水筒が告げる。その時まで、私は遥香の言葉を聞き、応え、時折冷めたレモンティーを口に含んだ。
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