赴任

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「佐野係長。ちょっと良いかな?」 御子柴が開発営業部に赴任してきて半年以上が経過した頃、佐野は御子柴に呼ばれいつもの様に御子柴のデスクに向かうが、直ぐに奥にあるミーティングスペースに連れて行かれる。 ここは他の社員に話しをしている姿はガラス張りで見られても声は聞こえないようになっている。佐野はいきなり呼ばれ連れて来られた事に緊張を隠せない。 「はい。どうしました部長?」 「急で申し訳ないんだが……新しく部署に人を入れることにしたからデスクとパソコン等の手配をお願いしても良いだろうか?」 時期としては新入社員が入ってくる頃ではないのでM i Cではよくある転職で入って来る社員だと佐野は理解した。こういう事は別に珍しいことではない。 「分かりました。で、いつ入ってくるんですか?」 「それが……まだ入ってくるかも分からないんだ。それでも準備をして欲しいんだが、出来るかな?」 御子柴の曖昧な返事に佐野は首を傾げる。入ってくるかも分からないのに新しい社員のデスクとパソコンを準備する? 今迄にはなかったことだが、上司の指示には従うしかないので佐野は首を縦に頷いた。 「分かりました。デスクは丁度小宮の隣が空いているのでそこに準備します。で、その入ってくる予定の方っていうのはどんな方なんですか? 営業向けですか? エンジニア向けですか?」 「それもね……入れてみるまでは分からないんだよ」 「えっ?」 御子柴の返事に今度こそ佐野は声を上げてしまう。入るかもどんな業種なのかも分からない社員を自分の部署に入れるなんて事は今まで佐野がこの部署に入ってからはなかった。 M i Cの中途採用の場合は一次試験として性格適性検査と能力適性検査を受けてもらい、合格者は二次試験として人事部や各部署の部長クラスを前に面接してから合否と本人の希望も考慮して配属部署を決めている。 入れてみるまでわからないという事は通常ではあり得ない。 「部長、それはどういう事なんですか? 入って来るかも向いてる業種も分からないって? 採用試験はどうなってるんですか?」 「採用試験はしているが私が行ったんじゃない。採用試験を行ったのは社長だ。社長が判断してウチの部署に入って来る事になったんだ」
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