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「初めまして。開発営業部係長の佐野 國臣です。僕も今日から係長なので至らない点があるかもしれませんが一緒に頑張っていきましょう!」
「佐野係長、ですね。小宮 勝月です、よろしくお願いします」
……声までそっくりだ。
自分に向けられた声を頭の中で何度も反響させては佐野の胸を痛めつける。兄弟? 親戚? 様々な憶測を頭の中で高速回転させるが該当する者はいなかった。
「あの、いつまで手繋いでるんですか?」
「ああっ、ご、ごゴメンっ!」
上から降って来た小宮の声に慌てて佐野が手を離す。赤くなった佐野の顔を見て部署の社員がまた佐野を笑う。
「もぉ佐野さんったらぁ」
「今日入った新人に注意されてどうすんだよ、佐野!」
「ほら、そのまま会社案内してやれ」
「佐野係長、よろしくお願いします」
穂高に促されるまま佐野と小宮は部署を出る。『良いなぁ』と言う女子社員の呟きに佐野は内心『代われるなら代わってあげたいよ』と思いながら小宮にM i C社内を案内した。
「--で、ここは休憩室。体調崩したり仮眠したくなったらここでね」
小宮は時々『はい』と返事をしながら佐野の後をついてくる。小宮からも質問が飛ぶが、佐野は小宮の方を極力見ないようにして社内を案内し続けた。
会社案内と自分のIDカードの取得、明日から使う自分のデスクの説明を終えて小宮の入社初日は無事に終わった。
『また明日からよろしくお願いします』と小宮に一礼されエントランスまで送った後、佐野はぐったりした様子で部署まで歩くが、部署に入る瞬間には再び明るい笑顔を貼り付け部署に入った。
「ただいま戻りました!」
「お帰り、どうだった小宮は?」
戻ってきた佐野を見て添田が声をかける。佐野は貼り付けた笑顔を変えないまま自分のデスクに戻る。
「凄いですね。本当にウチの部署の期待の新人になるんじゃないですか? だから……」
「そうかそうか! 佐野、小宮の教育頼んだぞ」
『指導は穂高課長に』と言いかけたのを添田が言葉を被せてしまい、佐野は言葉を飲み込むしかなかった。
「でも、ウチの期待の新人なら他の人が指導した方がいいんじゃ? 穂高課長代理とか?」
それでもと佐野は食い下がるが添田は気にする様子もなく豪快に笑いながら佐野の背中を平手で叩く。
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