赴任

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新たな年度に入り開発営業部にも新たな辞令が出た。部長の添田に代わり新たな部長職の社員が入ってくる事が発表された。穂高課長代理は課長に昇格し、佐野は変わりなく係長のままとなった。 新部長赴任の日、佐野はいつもの様に声をかけた。 「おはよ! 小宮」 「お早うございます。そういえば……今日ですよね。新しい部長来るの」 小宮が部署の奥にある真新しいデスクに視線を移す。他の社員も気になっているようでチラチラとドアを気にしているようだった。 「そうだね。小宮に言っても無駄だと思うけど気をつけるんだよ」 「何がですか?」 「新しい部長……僕も今日会うのが始めてだからどんな人かわからないけど、御子柴(みこしば)社長の弟さんだって」 「ウチの社長のですか?」 小宮の目が微かに開く。大企業の身内となると普通は役員にでもなっている事が多いが、部長として赴任してくることに小宮も驚いたようだ。 「だから、くれぐれも失礼のないようにね……って言っても無駄、だよね」 「ですね。社長の弟だろうが俺は気にしないので」 「ははっ、言うと思った。だから言っても無駄だと思うって言ったんだよ」 「ホント無駄でしたね」 佐野は軽く笑って小宮の背中を叩く。他の社員なら1ヶ月もあれば肩すら組めるが小宮に対して身体に触れてスキンシップができるようになるまで半年はかかった。こうして冗談を言い合えるようになるにも普段の社員より何倍も時間がかかった。 「おい、全員一旦手を止めて立って集まってくれ。新しい部長来られるぞ」 穂高の声が聞こえ部署の社員が全員起立して一箇所に集まる。ドアが開き長身で髪は濃いめのグレイヘアー。オールバック程ではないが後ろに流している男性を見た瞬間、社員達から溜息が聞こえた。 スリーピースのスーツを見事に着こなし知性と品性が滲み出ているのはM i C開発営業部新部長、御子柴 央(みこしば ひさし)だ。 御子柴はそのまま無言で部長のデスクにまで進んだ後、部署全員に聞こえる低く通った声で挨拶を始めた。 「皆さん。今日からこちらの開発営業部で部長として勤めさせていただく御子柴 央と申します。関西支社では営業部で部長職を務めてまいりました。本日からここ東京本社の開発営業部の部長として皆さんと一緒に頑張っていきますのでこれから宜しくお願いいたします」
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