940人が本棚に入れています
本棚に追加
御子柴の挨拶に社員がワッと声を上げ拍手を送る。簡単な挨拶を済ませた後は穂高から順に社員を紹介していく。
「佐野 國臣です。役職は係長です。御子柴部長、これからよろしくお願いいたします」
「宜しく」
簡単な挨拶をして握手を交わした後はそれぞれ自分のデスクに戻って仕事を始めるのだが……女子社員達は挨拶を終えてからも御子柴のデスクを離れる事はなかった。
「あの、御子柴部長って……お歳は?」
「これでも歳をそれなりに重ねているよ。40代半ばってところだからね」
御子柴の返事に女子社員が『えー見えない!』『30代でも通用しますよぉ』などと合いの手を入れ続ける。佐野はしばらくは様子を眺めていたがそろそろ仕事に戻って貰おうと部長の席に向かって歩きだす。
「えっ、あの……そのご結婚は?」
赴任初日から聞くことかそれ? と佐野は女子社員の図々しさに感心する。確かに御子柴の左手薬指には何も嵌めていなかった。
「していないよ」
御子柴の返事に更に女子社員のテンションが上がった。佐野は我慢の限界を迎え女子社員が群がる御子柴のデスク前に飛び込んだ。
「はーい質問タイムは以上ね! 仕事をサボってると初日なのに御子柴部長怒ってしまうよ。怒られない内に自分の業務に戻って頂戴ね!」
やんわりと注意したのに、佐野の注意は軽く感じるのか『係長、もうちょっといいでしょ?』『寧ろ怒られてみたいかも』『じゃあ終わったら一緒に食事でも行きません?』なんて言いだすから佐野は内心辟易とする。
「悪いね。私も初日でしなければいけないことが沢山あるから……」
「わかりました。では部長また後で……失礼しまーす」
御子柴の一言に女子社員達はうっとりとした瞳をしたまま自分達のデスクに戻って行った。
「有難う、佐野係長」
「いえ、部長も初日から大変ですね。ウチの女子社員達結構手強いですから注意してくださいね」
「分かった。気をつけておくよ」
「じゃあ、僕も失礼します。添田前部長からの引き継ぎについて詳しくは穂高課長に聞いてください」
『有難う』と御子柴に微笑まれ佐野もいつもの笑顔を御子柴に返した。御子柴の周りの女子社員を何とか片付け自分のデスクに戻ろうとしたら今度は小宮に声をかけられた。
最初のコメントを投稿しよう!