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絡まる鎖と縺れる糸
「お早うございます……」
休むと連絡があって2週間以上経ったこの日。そろりと周りに気付かれないように慎重に入ってきた代永を見つけ佐野が駆け寄る。
「あぁ! 代永クン!! 大変だったねー。出張先で体調崩しちゃったって聞いて心配してたんだよー」
「……すみませんでした。ご迷惑かけて」
「『体調悪いって気付かなくってあちこち連れまわして無理させて肺炎にさせてしまった』って部長が言っててねー」
代永は佐野の言葉に『はぁ』と溜息交じりの声を漏らす。まだ元気がないような気がするのは気のせいだろうか? でも病み上がりだし久し振りの出勤でもあるので緊張しているのかもしれないと思い、佐野はポンポンと軽く代永の肩を叩いた。
「季節の変わり目と初めての出張で疲れが出ちゃったかな?とにかく、これからは無理しないでね!」
「あ、りがとう……ございます」
ぎこちない挨拶だったが佐野は気にせずに自分のデスクに戻る。代永がデスクに向かう途中も他の社員たちが代永を気遣う言葉をかけていく。
「おはようございます」
「おっ、おはよ小宮」
小宮も出勤していつものように一直線に自分のデスクに向かっていく。何も気づいていないのか少々乱暴気味にカバンをデスクに置き仕事の準備を始める。
「お早う、小宮」
突然聞こえてきた声に小宮はビクッと身体を震わせ後ずさりする。そして声をかけてきた人物を何度も見る。
「ーーっ! 代永!! わ、悪いあいつもの癖でつい、びっくりさせたよな?」
「全然。小宮、俺のせいで迷惑かけてごめん……休んでた間俺の仕事手伝ってくれてたって……有難う」
申し訳なさそうに言ってくる代永に小宮は笑顔で返す。
「良いんだよ! 俺がしたくてしたんだし。それよりも体調、もう良いのか? まだ病み上がりだろ? 無理するなよ! 休憩室行かなくて大丈夫か? あっ、なんか飲む? コーヒー? お茶? 取って来てやるよ」
つい今までの癖で代永を気にかけてしまう。そんな様子を見て代永がクスッと笑みを見せたが、やはり視線はどこかずれていて小宮の方を向いてはいなかった。
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