その後のティータイム

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その後のティータイム

「どうして、恵子さんは私の前に現れるようになったんですか?」  三時休みの休憩室。いつものように、私は恵子さんとお茶をしていた。紺のスーツに身を包む恵子さんは困った様子で苦笑してみせる。  持っていたカップに口をつけ、彼女は口を開いた。 「息子が気になる子が出来たって話をするようになってから、白昼夢をよく見るようになったの。それも、経営してる喫茶店の常連になってくれた女の子と、昔の職場でお茶をする夢。彼女言うのよ。好きな人が出来て悩んでるって。まさかうちの息子があなたの好きな人だったとわね」 「不満ですか?」  私の言葉に恵子さんは首を振ってみせる。 「いいえ。私があなたたちの恋のキューピッドになったのよ。幸せになってくれなきゃ困るわ。お嫁さん」 「よろしくお願いします。お義母さん」  カップをソーサーに置き、彼女は私の質問に答えてみせた。その言葉に、自然と笑みが零れる。 「ええこちらこそ、よろしく。もちろん、同居はなしの方向で」  彼女の言葉に係長の顔が一瞬頭を過った。どこまでもこの人は私のことをお見通しらしい。 「すみません。あのお義父さんはちょっと……」 「わかってる。でも、あの人も可愛いところがあるのよ」  そっとティーセットを机の上に置いて、彼女は微笑んでみせる。たしかに、あのバーコード禿の係長と目の前の素敵な女性が結ばれる過程を想像することができない。  それでも彼女はあの人に夢中になってこの会社を辞めたんだよな。 「でも、仕事は辞めないでね。そうじゃないと男の人ってつけあがるから」  恵子さんがウインクして私に言葉を投げかけてくる。シャイな彼が係長みたいになるのは想像できないけれど、私も仕事を辞めるつもりはない。  今の時代。結婚がゴールなんて言葉はどこにもないのだ。恵子さんに会って改めて、それがわかった。結婚は新たな生活のスタートに過ぎない。恵子さんは、あの人が育ちあがるまでどんな苦労をしてきたのだろう。それを思うと、私の人生まだまだこれからだなと思えてくる。 「やめませんよ。仕事も結婚も」 「それでいいわっ!」  私の言葉に、恵子さんは満面の笑みで答えてくれた。
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