挫折

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挫折

 新学期が始まってから丁度一か月経った五月一日。濱崎(はまさき)啓一(けいいち)は、自転車を大学の駐輪場に停めた。日差しは暑く感じられるが、体を包む空気はひんやりと冷たい。着ていて良かったと思いながら、ジャンパーの襟を正す。 「この景色ともお別れか」  軽くあたりを見渡す。入学してから修士二年生までの六年間も過ごしたキャンパスなのに、不思議と感慨さはなくむしろどこか清々しい。啓一は自転車の籠から鞄を取り出すと、中から紙を一枚取り出した。 ”退学届”  ヨレもなく、記入漏れもないことを再確認する。そして、深呼吸をひとつ吐き、心の準備を整えてから、事務センターへと足を進めた。 ──新しい元号の始まった今日、俺は学生生活を終えた。
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