ヒトとしてイキル

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ヒトとしてイキル

「…おれは…おれは…人間では…生きてる価値なんて…うわぁぁぁ…!!」 ガッシャーーン!! 「………」 彼は電柱に正面から衝突した…。 押し潰された車の運転席で、彼はただ無表情のまま…一点を見つめていた…淀んだ液体を垂れ流し…まるで、生命スイッチが切れたかのように…絶望の淵をさ迷い続ける…。。 _____衝突の2時間前_____ 彼は、一番の友である元(ハジメ)と居酒屋でお酒を酌み交わしていた…。 「ほら、仁(ジン)!もっと飲めって!!」 ゴクゴク……ぷはぁ…! ジンは、ハジメに勧められ、強いお酒をグイグイと飲み干す。生ビール、焼酎、日本酒、ワインにハイボール、サワー…どんなアルコール系もジンにとっては、只の水、当然!! 酔うことはなく、ただひたすらハジメと他愛もない会話を楽しんでいる…! ハジメはお酒にそこまで強くないのか…顔をだいぶ赤らめた状態で、目が虚ろになっている。まぁ…いつものことだ。 ハジメは決まって、同じ話を繰り返してくる…。それは、仲の良かった弟の思い出話である…。後悔混じりに、涙ぐみながら、熱く語っている…。 ジンは何回も耳にタコが出来るぐらい聞いた話を新鮮な聞き手役として、買ってでる…。 「うん…うん…。」 たまにの相槌も忘れない…。 ハジメは今となっては、ジン…お前が弟だ!と、執拗に語ってくる…。 それは、それで、凄く嬉しかった…。 …俺は気づいた時には、今のハジメの家の一員として、迎え入れられていた…。 ハジメのご両親も優しく接してくれた…。 身寄りがなく…記憶喪失…になってしまった俺を温かく招き入れてくれた…ハジメファミリーには返しきれないぐらいの感謝の念で一杯だ…。 ありがとう…ありがとう…対面で酔いがまわって、うずくまるハジメに、俺は感謝の言葉をなげうつ…。 ガタッ…! 急にカウンターで、1人酒を喰らっていた中年男が、俺らのテーブルに歩み寄ってくる…。 酔っぱらいが、いちゃもんでもつけに来たのであろうか…。 「…ウィ…ヒック…!なんだい、相棒はもぉ、潰れてしまったのかい?…それにしても、もう1人のあんちゃんは、ものすごくお酒が強いねぇ…。。これだけ、大量のアルコールを摂取して、顔色一つ変えずに、、まるで、真水を飲んでるだけのようだねぇ…。」 「味は分かるのかい?お酒の旨味は?」 「……いえ、全く…記憶喪失で、味覚も無くなったみたいで…。」 …寝息を立てながら、対面で俯せになっているハジメ…。 「…記憶喪失ねぇ…じゃあ、おじさんが至高の一杯をご馳走してあげよう…!」 と、言うと…その酔っ払い中年は、さっきまで自分の飲んでいた一升瓶を脇に抱え、こちらに戻ってくる。 トクトクトク…… 「さぁ…飲んでみなさいな!きっと、昔の思い出も甦るんじゃないかなぁ…?」 俺は、刺激による記憶の甦りを期待し…かなりの強いお酒だと思われる…その差し出されたお酒の入ったグラスを手に取り… 一気に飲み干した……。 ……んっ……何も味はしなかった……気分もそこまで変わらず……んっ…んぐぅぅ!! 彼は苦しみ悶える…! 「あっ…がっ…がぁぁ…ぐっ…げぇぇ…」 …ハッと、ハジメが顔を上げる…! 中年親父のほくそ笑む姿と…倒れたグラスを目の当たりにしたハジメは… 「…お前…!一体何を飲ませたんだ…!!」 「…いやいや…ただの濃厚な塩水だよ…。」 …!!! 「…くっ…もぉ…家に帰ろう…!ジン…!」 ハジメはポケットから車のキーを取り出し、苦しむジンの体抱き寄せ、居酒屋を出ようとする…。 ガシッ…! 「お勘定はまだ早いですよ!ハジメさん!!」 酔っ払い中年男に腕を掴まれるハジメ…。 「ぐっ…離せ!誰なんだよ…お前は!!」 ジンは、そのやり取りを頭で追えないぐらいに、身体全体が熱くなり、頭から煙が出てそうな勢いであった…。目の前が霞んで、真っ暗闇に浸りそうな…。。 その時…鋭い刺激が頭の回路を直撃した…! 乱れた記憶?の映像が小間切れになって、ジンの頭を何度も迂回してくる…。 『……ジン……お前が家出してから、随分と長い月日が過ぎたけど…こうやって、お酒を酌み交わす日がくるなんて…俺は嬉しいよ……ありがとう……』 見覚えのある家の風景…顔の似ている二人がお酒を酌み交わしている…。 『……うっ…うっあぁぁぁ…!そ、そんな…どうして…俺は…折角…再会できたのに…。。。あっ…あっ…』 バダンッ…! 部屋の中に入ってくる…二人…驚きの表情をしている…。あっ…これはハジメのご両親だ…。 『……な、なんてことだ…まさか…いや、これは事故だ……ハジメ…お前は決して悪くはない……奇跡的に……脳は無事みたいだ……私に任せなさい……。』 は、母?は…うずくまり泣いている…。 ハジメの傍には…俺…に…似ている姿の男が胸から血を流し…倒れている…? 『……酔っぱらって……口論になって……それで……急に掴みかかってきたから……無我夢中で……そしたら……あっ…がっ…えぐっ…』 ……ち、父?は、ハジメを強く抱きしめている…。。 プッチュン……! …そこで、映像は途切れた…。 「…何か思い出しましたか?ジン…さんかな?」 酔っ払い中年男は、疑問を添えながら訊いてくる…。 「…だめだ…!何も思い出しちゃ駄目なんだ!!…俺らは新しい家族なんだから…!」 …この胸が締め付けられるような…感覚は何なんだろうか…。 俺は一体…何者なのか…。。それさえも考察することを阻害する…不安感…。 感情豊かに笑って過ごせる…平和で安息な世界から足早に…遠退いていく存在意義…。 「…俺は一度…死んでいるのか…?」 ジンは、真っ直ぐに聞いた…。 「………」 ハジメは俯いたまま…何も答えない…。 「…俺は、ジンであって…ジンじゃない…。」 ……ジンは咄嗟に、ハジメから車のキーを奪い取り、外に飛び出した…!! ブォォォォン…!! …自分自身の…今生きている存在の…答えを探す…宛のないドライブ…。一向に見つかるはずのない…果てしない…暴走狂騒曲…! 自問自答しながら…どんな感情を表に出していいのかも…いや、もはや…感情などはどこにも無かったのだろう……。 俺には…人間が本来持っているはずの…ハート…心臓が無いのだから……。 今…思えば…おかしいと感じたことはいくつもあった…ハジメ家に世話になって、一年余り…俺は…ハジメと外に出て飲む以外は、ずっと家にいた…。 テレビや本など何もない居住空間…脳の刺激となるものは何もかもない…。 全く食欲が湧かない日常…。味は何にも感じない…。 排泄は、たまにまとめて大きな丸い物が出るだけ…。 鏡を見るたびに…感じた…不思議な感覚…。 なぜ…居なくなった弟のジンという名前で呼ばれていたのか…。 ハジメの両親の時折見せる…歪な笑顔…。 …ハジメは…弟を死なせてしまったショックで…精神不安定になってしまった…。そして、毎晩のように、お酒を飲んでは、兄弟の話をして、酔い潰れる…。 「…俺は…ロボット…ジンのアルコロイド……!!事件発覚を恐れて…脳だけを使って…新たに作り出された…ジン…。。」 「そ、そんな…バカな!!」 ドガッシャァァン…! ジンの運転していた車は、電柱に激突した…。身体から…アルコールなのか…燃料…なのか…分からないものがダクダクと流れ落ちていく…。痛みは全くない…。あるとすれば…ココロの痛みか…。。 「あ、兄貴……ありがとう……。」 ………その後、執念の捜査により、機を伺っていた酔っぱらい中年刑事に…ハジメとその両親は捕まった…。家族ぐるみの犯行…。父親は天才科学者であり、社会的に禁忌とされていた、脳から復元する人体ロボットの試作として、彼をこの世に部分的に残らせることに成功した…。 しかし…生命を一度失った者は決して…本物としては生まれ直すことはできないという事実が露わとなったきっかけでもあった…。 彼を…ジンを罰することなど、誰もできない…。 彼は…世間から…自分の意志で…生き続けることを許された…。 彼は、今もなお…一人で…家族の帰りを待っている…。 【完】
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