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「何か良いことあった?」
Dは、笑いを含みながら、チャラ男みたいに軽くAに言う。
(教室に入った時から、ずっと俺を観察していたの、お前。)
Dの顔を見ながら、Aはうなだれる。
(ムカつくムカつく、お前のせいで昨晩は最悪だったの!この馬鹿野郎!)
Aは、Dを前に心の中で、思いっきり毒づいた。
しかし、Dは、いつものように、Aに楽しそうに話しかけて来る。
「見た、見た。裏掲示板。面白いことが、載ってるのに」
「見てない。」
(お前のせいで、まったく見る気がしない。)Dに対してますます、心の中で毒づくA。
「えー、見てないの。」
(その嬉しそうな声は、何なのだ。)
Aは、Dに内心、馬鹿にされたような気がした。
この学校には、学校自体が、そこに通う生徒たちやその保護者に、連絡を目的として、運営している掲示板がある。
それ以外に、生徒会と一部の卒業生達が、運営している通称”裏掲示板”がある。
もともとは、生徒会に属していた卒業生のパソコン好きが高じて、在校時に始めたもので、有名大学に受かる推薦入試の面接の受かり方や参考書の選び方など、有名進学校であるこの学校に似つかわしいものであったが、いつからか生徒たちが、先生や学校のゴシップを投稿するようになり、校則の厳しいこの学校に通う生徒達の息抜きとなっている。
そんな掲示板だが、卒業生との繋がりや、進学に有利な情報もあるため、しぶしぶ先生達に黙認されているのが、現状だ。
「これ見てよ。僕が投稿したの。」
Dは、人が悪そうな笑みを浮かべながら、自分のスマホの画面をAに見せる。
それは、昨日、Aが黒板に書いた相合傘の写真。
Aは、知ってるよと言いそうになり、慌てて口をつむぐ。
「初めて投稿したんだから、よく見てよ。」
Dのかなり嬉しそうな顔を見て、Aは、不快になっていく。
Dには、自分のささやかな悪戯などまるで、通じてない。わざわざ自分で、掲示板に投稿し、自分とBが付き合っていることを、皆に教えて喜んでいるようにさえ見えるとAは、思った。
「特に名前のところ。」Dが、Aに追い討ちをかけるように言う。
仕方がなくDのスマホの画面をAは、じっと見る。
??????????????????????????????????????????????Aは、何がなんだかわからない。
自分が書いた相合傘のDの名前が、自分の名に入れ替わっている。
Aは、池の鯉のように、口をぱくぱくさせながら、やっとの思いで、Dに問いかける。
「これって、どういうこと?」
「写真撮ってから、元どおりにしておいたから安心してよ。」Dは、ますます嬉しそうに笑いながら、言う。
Aは、黒板が、元どおりになって自分の悪戯が、先生に見つからなかった安堵感よりも、自分とBの名前の相合傘の写真が、掲示板に載っていることの方の恥ずかしさが、Dの言葉がきっかけで、一瞬にして、体中を駆け巡った。
そして、Aの頭の中で、全てが繋がった。
昨日、BとDが、親密に話しこんでいたこと。
今日の登校時に、生徒の皆が、自分を見ていたこと。
クラスメイトの痛い視線。
Bの異変。
薄緑色のラブレター。
(今までの出来事の犯人は、俺の親友D。お前だ。)
Aは、悔し紛れに、自分の大好きな推理マンガの主人公みたいに心の中で、決め台詞を吐いてみる。
そして、Dは、Aに主人公のライバルの怪盗のように告げる。
「二人の仲をこれからずっとプロデュースするからな。」
始業のベルが鳴り、Dは、軽やかに自分の机へと去っていくのだった。
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