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渋滞の長い列にはまり込んだ一台の車。中には清潔感のあるスーツをそつなく着こなした、いかにもエリートビジネスマンといった風体の男たちが三名乗り込んでいる。
「ちぇっ、参ったなあ」
ハンドルを握った黒沢がぼやいた。
「ここまで来て事故渋滞かよ。さっきからもう12分も経ってるのに全然動きゃしない」
「この調子じゃ、先方に着くのは3時過ぎちまうかもしれないぜ」
助手席の乙川が焦る。
「そうなったら、こんな間抜けな話はないぞ。そもそも時間に間に合わなきゃ、エントリーもさせてもらえないんだからな。土俵にも乗れずに失格だ」
「ここまで準備に時間かけたのに、そんなの目も当てられないぜ」
乙川が膝に抱えた大ぶりのアタッシュケースを大事そうに撫でる。
「準備に時間かけるのは当然だけどな。世の中甘くないんだ。他人様からお金を貰うには、こっちも完璧な仕事をしなきゃならん。お互い真剣勝負なんだから」
ナーバスな表情の黒沢が、ハンドルを握りなおす。
「大丈夫。必ず間に合う」
後部座席に座った少し年嵩の岩田がみんなを落ち着かせる。
「大丈夫かなあ」
「乙川も言ったけど、ここまで時間かけて準備したんだ。だからこそ今日は絶対に上手く行くさ」
岩田の冷静な声が車内の雰囲気を変える。
「お、車が流れ始めたぞ!」
「よし!これなら間に合いそうだ」
「な、絶対上手く行くって……」
「速報です。今日の午後、閉店間際のフジヤマ銀行桜が丘支店に三人組の男が押し入り、現金五千万円を奪って逃走しました。警察が行方を追っています……」
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