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 俺は一瞬悩んだけれど、コクリと頷いた。 「職場の人には言えない」 「そうか……」  渡兄ィは、すぐに感情が顔に出るタイプだ。今だって、俺の選択に納得できないような顔をしている。  でも、あくまで俺の気持ちを尊重するつもりらしい。自分自身を納得させるように何度も頷いてから、渡兄ィは穏やかな口調で言った。 「渓一、オレ達は人に優しくなろうな。そういう風に、人を物みたいに見る人間に、お前はなるんじゃないぞ」  その言葉を聞いて、俺はまたゆっくりと頷いた。 「なあ、くじけるのはまだ早いよ。せっかく頑張ってるんだから」 「……」 「なんでも周りに相談しながらやるんだよ。職場の人に言えないことは、オレに相談しろよ。一緒に考えてやるから」 「……うん」  渡兄ィはニッコリと笑って、また箸を取った。  何かが解決したわけじゃないけど、渡兄ィに話したことで、少しは気持ちが軽くなったような気がした。  もしかすると、これってとても大切なことなのかも知れない。話を聞いてくれて、応援してくれる人がいる。それだけでまた少し、心にやる気の炎が灯ったような――そんな気がする。
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