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ふーっと深く溜息をつく。
このまま地図を見ながら行けば、駅には辿り着くはずだ。でもいざ冷静さを取り戻してみると、なんだか走り疲れたような気分になっていた。
月が雲に隠れ、周囲が暗くなる。
その時、近くで何かが蠢くような気配がした。俺はとっさに鞄を胸に抱きかかえて、じっと耳を澄ませた。
――ヒュー……ヒュー……
すぐ側の森の中から、誰かが掠れた口笛を吹く音が聞こえてくる。
こんな夜中の真っ暗な森の中で、誰が口笛を吹くというんだ? ゾーッと背筋が凍りつくように震え上がった。
――ブロロロロ……
今度はバイクの音だ。俺はハッとなって立ち上がった。
「渓一ー!」
遠い音に混じって、渡兄ィが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
俺は必死になって叫んだ。
「渡兄ィー!」
エンジンが空気を震わせ、タイヤが砂利を弾く。その聞き慣れた音が、どんどん近付いてくるのが分かると、俺の胸に安堵の思いがこみ上げた。
やがて闇の中にヘッドライトの明かりが浮かび上がり、渡兄ィの乗ったバイクが俺の目の前で停車した。
「渡兄ィ、来てくれたのかよぅ!」
思わず抱きつくと、渡兄ィはバイクにまたがったまま少しよろけた。
「駅まで行ったのに全然見当たらないから、こりゃ道に迷ったんだろうなと思ってさ。この辺、どこ行っても似たような景色だから、オレも慣れない頃はたまに迷ったんだ」
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