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目の前に突きつけられたヘルメットを受け取りながら、俺は渡兄ィの耳元で、ヒソヒソと小声で訴えた。
「さっき、誰かがいたんだよ、森の中に!」
「えっ? 誰かって……」
「不審者かもしれねえ! 森の中から気味の悪ィ口笛が聞こえてきたんだ!」
渡兄ィはキョトンとした顔をして、バイクのエンジンを切った。ヘッドライトが消えて、辺りは真っ暗になる。
俺としては、いつでも逃げられるようにバイクのエンジンは入れておいて欲しかった。渡兄ィの腕にしがみついて、警戒するように周囲を見回す。
静まり返った森に囲まれ、二人身を寄せ合いながら、じっと息を殺すようにして耳を澄ました。
――ヒュー……ヒュー……ヒュー……
あの音だ! またあの不気味な口笛が聞こえてきた!
渡兄ィは俺の顔を見て、『これ?』というジェスチャーをしてくる。俺は真っ青になりながら、何度も頷いた。
途端に、渡兄ィはプッと吹き出した。
「これ、トラツグミの声だよ」
「トラツグミ?」
「夜に鳴く鳥の声!」
ポカンとしていたら、渡兄ィはバイクのハンドルに顔を伏せて、また声を上げて笑った。
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