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夏休みが終わるまで、俺は渡兄ィの家の番犬のようになって過ごした。
あの一件以降、中川は俺達の前に姿を表さなかった。
渡兄ィも中川の連絡先は消去したらしい。「もう忘れた」と言っていた。だけど時折、ふっと寂しそうに表情に影を落とす瞬間はあって、その度に俺は渡兄ィのことが心配でたまらなかった。
「渡兄ィが寂しくないように、俺が添い寝でもしてやろうか」
と、毎日のようにからかっていたら、一度だけ本当に布団の中に招き入れられた夜があった。
でも一つの布団に横たわって、二人並んで寝たというだけで、それ以上のことは何もなかった。
別に何かが起こることを期待していたわけじゃない。
だけど、意地でも俺に指一本触れようとしてこない渡兄ィに対して、何故か無性にムカムカしてきて、逆に俺が意地になってしまった。
布団の中で渡兄ィの身体を強引に抱き寄せたら、渡兄ィは一瞬石のように硬くなって、俺を見つめた。でも、恐る恐る俺にもたれかかり、そっと目を閉じると、あとは溶けるように、安らかな顔で寝息を立てていた。
人肌の温もりは心地が良い。
触れ合っているだけで安心して、穏やかな気持ちになれるんだということを、俺は初めて知った。
考えてみたら、誰かの温もりに包まれながら眠るなんて、赤ん坊か幼児の時以来なんじゃないかと思える。
夏は涼しく、冬は寒さの厳しい軽井沢の夜を、渡兄ィは冷たい布団の中で、いつも一人で過ごしているのか――そう思うと、触れ合った部分から、渡兄ィの孤独が伝わって来るような気がした。
そして俺は、赤ん坊のようになって眠る渡兄ィに対して抱いているこの感情が、『愛しさ』だってことに気付き始めていた。
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