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「ただいまー」
玄関の扉を開けると、奥の方で渡兄ィの「おかえり」という声がした。たぶん、工房で絵を描いている最中なんだろう。
――ちょっと脅かしてやれ。
俺は渡兄ィと顔を合わせずに、靴を脱ぐとそのまま階段を上り、寝室へと向かった。
寝室のドアを開けると、俺は着ていた服を部屋の隅に畳んだ布団の上に脱ぎ捨てた。そして手にしていた紙袋の中身を取り出す。
今日俺は午後一番で床屋に行き、そのまま軽井沢町内のリゾートホテルにアルバイトの面接を受けに行った。面接は渡兄ィの言った通り、形だけの簡単なもので、即日採用が言い渡された。
この紙袋は、バイト先から預かってきたものだ。これで渡兄ィをあっと言わせてやるんだ。
「どうだ、渡兄ィ!」
工房の扉を勢い良く開けると、渡兄ィは俺を見て口をあんぐりと開けた。
「へー……それ、バイト先の制服?」
「そう。カッコイイだろ?」
俺はニヤリと笑って、出入り口から部屋の真ん中までモデル歩きをし、ポーズを取ってみせた。
丈の短い詰め襟のジャケットに、円筒状の制帽。俺が身にまとっているのは、ベルボーイの制服だ。
本当はスタッフ用のロッカーに置いておいて、クリーニングもホテル内のランドリーに持っていくものらしい。俺が使う予定のロッカーがまだ決まっていなかったから、今日だけは持って帰ってきたんだ。
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