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街灯が少ない夜の道は、真っ暗だった。
闇に慣れていない目では、ほとんど何も見えない。
それでも鞄を抱えて走っているうちに、青い月明かりの下に浮かぶ森の輪郭が、少しずつはっきりとし始めた。
軽井沢に来て二週間。渡兄ィの家から、駅の反対側にあるリゾートホテルまで、自転車で何度も通った。だから、駅まで辿り着くことは簡単だと思っていた。
それなのに、いつまで経っても見慣れた明るい大通りに辿り着かない。
走っても走っても、木、木、木。
薄暗いせいで、曲がる角を一本間違えたのかも知れない。∪ターンをして仕切り直そうとしたら、方向オンチの俺は余計に混乱してしまった。
どこを見ても、背の高い木々に囲まれた、似たような景色の連続。俺は今、一体どこを走っているんだろう。
やがて家の窓の明かりもまばらになり、薄暗い森ばかりが続く道に出た。駅の方向とはかけ離れているということだけは、明らかに分かった。
俺は道端の低い石垣に腰を下ろした。
石垣は苔むしていて、尻に湿った冷たい感触が伝わってくる。
鞄の中からスマートフォンを出し、画面を操作する。地図アプリで現在地を確認すると、やっぱり思った通り、俺はトンチンカンな場所にいるらしかった。
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