2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
寂しがり屋とケーキの悪魔
3時のおやつにチョコレートケーキを食べたいと思った。だから俺は3時にケーキが出来上がるように生地を作り始めた。がっつりしたチョコレートケーキが食べたかったので生地にもココアとチョコを練りこんでチョコクリームをサンドして、周りもチョコでコーティングした。それから適当にチョコペンでケーキの上に模様を描いた。そうしてちょうど3時にいただきます、と手を合わせたら
「我を呼んだのはお前だな。」
悪魔が召喚された。
とりあえず俺はケーキが食べたかった。だからこそ作ったのだ。なので俺は召喚された悪魔を無視してケーキにフォークを向けた。
「待て待て待て!!食べるな!食べるな!それは私の依り代なんだぞ?!食べたらいなくなっちゃうんだからな?!」
悪魔がそう騒いで俺からフォークを取り上げた。
「いや、でも俺、ケーキが食べたいんですよ。」
それもこってりと甘いやつ。
「作る!私が作るから!!」
それならお任せしてみようか。
「材料をくれ。」
「ここは魔法とかファンタジーな感じでお菓子出す場面なのでは?」
そうして俺がケーキに使った残りの材料で悪魔はチョコチップクッキーを作った。
「なんか食べたかったのと違うんですけど。」
俺が食べたかったものとは方向性が違うと言えば黙って食えと言われた。
「あ、美味しい。」
「だろう。」
クッキーは普通に美味かった。いや、そんなどや顔されても困るんですけどね?というか悪魔自身もクッキーを食うな。材料俺持ちなんだぞ。
「それにしてもあなたはどうしてここに来たんですか?」
「デビルズケーキさんと呼べ。お前が私を呼び出すのに必要な依り代を作成し、私を呼び出すための文様を描き、3時に手を合わせたから来てやったのだぞ!!この、ケーキの悪魔の1柱、デビルズケーキが!!」
デビルズケーキさんはそう言って胸を張った。つまりは偶然が招いてしまった悲劇という事か。俺がたまたまその文様をチョコペンで描いてしまって3時に手を合わせたがゆえに起きた。デビルズケーキさんは俺より小さな女の姿をしていた。茶色の混じったストレートヘアーは腰に届くほど長く、シンプルな黒のワンピースにゴテゴテしたマントのような上着を羽織っていた。
「とりあえず帰ってくれませんか。」
「何を言う。私は悪魔だぞ。代価と交換にお前の願いを叶えてやりに来たんだ。さあ、願い事を言え。」
「甘いものが食べたいです。」
「クッキー食ってるだろ!!というかもっとスケールが大きい願い事!」
「例えば?」
「……世界征服?」
どうやらデビルズケーキさんもそこまで色々思いついてはいないらしい。
「いや、本当に大した願い事なんてないんだよ。」
甘いものが食べたいくらいしか。
「いやいや。あるはずだ。だって、すごい願い事が、想いがなければ私みたいな高等ケーキ悪魔を呼べるはずなんてないんだから。」
高等ケーキ悪魔とは。しかし、いくらそう言われても思い当たるものがないのだから仕方ない。
「そもそもお前、夜中の3時にこんな高カロリーでしかも手がかかってるケーキなんて焼くやつあるかよ。」
「そういう気分の時もあるんだよ。人間って。」
「さらにその上にこんな凝った文様を描くか?ふつう。」
チョコペンで適当に描いた文様は理解できないような幾何学模様。
「描くんだよ。たまに。」
しげしげと俺の作ったチョコレートケーキを見たデビルズケーキさんは言った。
「とにかくお前に強い願い事があるのは間違いない!その願い事が出てくるまでは一緒にいるからな!!そのケーキは大切に冷凍保存してくれ!!」
俺はため息をつきながらデビルズケーキさんの指示に従った。そういえば―――
(誰かと一緒に菓子を食べたのなんて、母さんが死んで以来だな。)
最初のコメントを投稿しよう!