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*プロローグ
東京、深夜0時すぎ。その通報があったのはもう日付も変わろうかという午後11時58分。冬の暗く静かな筈の公園はいつもとは違い騒然としていた。
被害者は新年会を終えて帰宅途中だった女性会社員で背後から刺された後、首を絞められていた。
「通り魔ですかね」隣では後輩の岩下巡査長が独り言のように呟く。
目の前に転がる遺体に目を向けると20代前半だろうか、まだあどけなさの残る顔は目を見開いたまま硬直していた。苦痛を訴えたまま光を失った見上げる瞳、その何も映してはいない暗くて深い闇に吸い込まれそうになる。
蓼科大貴巡査部長は舌打ちをして、後輩へ背を向けた。
「どうだろうな、それより目撃者は?」
「あの二人なんですが……」
軽く指差す方を見る。
4、50代のサラリーマンと20代後半位の女性が寒空のした、震えながら立っていた。
「二人がどうした」
「いやぁ、まぁ、聞いてきて下さいよ」
歯切れの悪い岩下を残して目撃者二人の元へ小走りに移動する。そして二人の目撃者から話を聞くうちに、岩下の歯切れの悪い原因が解った。
二人の目撃者が言うには、悲鳴を聞いて駆け付けた時には犯人はまだその場にいて、同じように駆け付けたもう一人を見て物凄い速さで逃げ出したという。犯人は若い男。ここまでは両者ともに一致している。問題はここからだった。
「もう一度聞きますが、他にもう一人この場に居たんですね?」
「ああ」4、50代に見えるサラリーマンは不機嫌そうに言い捨てた。こちらも新年会の帰りだと岩下からの情報があった。かなりの酒の量であてにはならなそうだ。だからと言って、ここまで目撃者二人の意見が食い違う事はまずあり得ない。
どういう事だろう。
一体、これは何なんだ。
蓼科大貴は混乱した頭の整理をつけようと煙草に火をつけた。
「虚構の空」
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