第5節 スポーツマン 桂場(後半)

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複数人でするスポーツは久しぶりだった。そもそもバイト以外で昼間に動いている健全な人と関わること自体が久しぶりだった。 皆で身体を動かすことは楽しく、良い気分転換にもなった。アルバイト生活を始めてから2年の間、ちょっとした鬱状態になっていたが、案外、純粋に楽しめる心は持っていて安心した。それから何回か参加した。 俺は普通の人間に戻れているんじゃないか、そんな気がする。ちょっとした自分の居場所の様に感じていた。 俺が夜働いていた事は敢えて話すことでもなく、それが理由で都合が良くなることは1つもないので伏せるようにはしていた。 ある日、竜馬くんから夜飲み会があるから如何か、と誘いがあった。 断る理由もなく、参加することにした。 飲み会では竜馬くんから「りえさん」と「みっちゃん」を紹介され、彼女達からもちょくちょく誘いを受けるようになった。 かれこれ、私が初めてフットサルに参加してから3ヶ月が経った。 りえさんやみっちゃん。そして勿論竜馬くんとは毎週の様に顔を合わせ、最早もっと昔から知り合いだったかの様な存在になっていた。 私のメンタルもすっかり良くなり、自然に笑えている。 そんな中、引っ越したばかりだというみっちゃんの家で引っ越し祝いをするとのことで招待された。 どうやらその際に紹介したい人がいるとのこと。その人はとても凄い人なんだと。何が凄いのかはよくわからないが、とにかくその「とても凄い人」とも会うことになった。 当日、みっちゃんの家に向かう。 みっちゃんの家は駅から少し歩く。決して歩けない距離ではなく、駅前でうるさいわけでもなく、人を呼ぶにも丁度いい位置だと感じた。 みっちゃんの住むマンションに着くと、階段で2階に上がる。みっちゃんが家の扉を開ける。鍵は掛かっていない。 無用心だな。とボソッと口に出てしまったが、みっちゃんは 「もう既に例の紹介したい人が中で待ってるから。」と言った。 それから家に入り部屋の奥に進む。 玄関の奥にリビングに入る扉がある。 私はその扉を開けて中に入った。 すると中年の男が1人座っている。 見たことのある顔だった。 「桂場…!?」 一瞬、時が止まった。 2度と会うことがないと思っていた彼と思いもよらぬ再開をした。 珍しく、いつも冷静な桂場が驚いた表情を見せる。そしてそのまま立ち上がる。 「すまない。」 そう言って足早に部屋を出た。 状況がよく分からないが、あいつに聞きたいことは沢山ある。 俺は急いで桂場を追い掛けた。 竜馬くん一行は何が起きているかなど全く分かるわけもなく、桂場と俺の動向を横目でみていただろう。 マンションから外に出ると桂場がタクシーを捕まえようとしていた。走って追いかける。 奴がタクシーに乗ろうとしたギリギリで追い付き、直前で肩を掴み引き留めた。 「何故逃げる、桂場。」 全力で走った為、息が上がる。 「悪いがお前とは縁を切った。これ以上関わりたくはない。」 「俺がいると都合が悪いのか?理由を説明してもらおうか。」 「お前に話すギリはない。悪いが今後一切サークルにも参加しないでくれ。」 「折角、俺の望む環境が手に入ったと思ったんだが、それをも俺から奪う気か?お前は。」 「ふっ、はっはっはっ。笑わせるな。前の店もそう、今回のサークルもそう。元々俺が与えた金や環境であり、しかも金に関してはそのままお前に与えている。店を畳んだのはお前の都合だろう。」 「店は浦和のビルに全て持ってかれたことに原因はある!あれもお前が関わっているのだろう?」 「甘えるな。」 「どうせあのサークルもお金が絡んだ話だろ。目的を教えてもらおうか!」 「しつこい奴だ。お前に話すことはないし、今後一切関わってくるな。」 そう言って無理矢理扉を閉められた。もう一度開けようとした時には鍵を掛けられ開かず、そのままタクシーは発進した。 車の通りが多い訳でもなく、桂場は遠く彼方へ消えてしまった。 歩いてマンションへ戻ると、部屋の前に私の荷物が置かれていた。扉には鍵が掛かり開かず、インターホンは押しても中から反応はない。 私は、また桂場によって居場所を失った。
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