第1話 モンスターになりました

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第1話 モンスターになりました

「ん……朝か」 カ-テンの隙間から射し込む光で目が醒めた。 ……おかしい。気のせい…… ベッドの上から起き上がるが、視界がやけに低い。 「じゃない!? --あれか(・・・)」 ふっと頭をよぎったのは昨夜の出来事。 昨夜--俺はいつものように依頼を受けてタ-ゲットを待ち伏せしていた。 殺し屋。 それが、俺の顔。 14歳の時に闇の道へ自ら行き、 現在18歳で漸くまともな生活が出来るようになって来たところだった。 そんな時、殺しの依頼を受けて名のある富豪の屋敷周辺を散策している時だった。 屋敷を一望出来て尚且つタ-ゲットを捉えられる絶好のポイント。 大樹の幹の上という一見目立ちそうな場所だったが、俺は敢えて逆手に取った。 そんな堂々と狙う殺し屋はそうはいないだろう。 だが、俺の読み通り手薄な場所だった。 まさか、そんな目立ちそうな場所にいるとは思いもしなかったのだろう。 幸いなことに俺がいた大樹は屋敷周辺に無数に立ち並んでいたこと。 そうして身を隠し、その時を待っている時だった。 一瞬、それで終いだ。 装置銃を身構え呼吸を殺す。 タ-ゲット確認後、僅か0.1秒もない刹那の世界。 たったそれだけの時間で全てが決まる。 下手をすれば己の命すら落とす者達がいる中で、それでも俺はまだ殺し屋として日々を過ごしていた。 「動くな」 頭に押し付けられたのは拳銃。 この世界に入ってから、幾度と無く同じ経験はあった。 いつしか、視界に入らなくとも直ぐに拳銃だと分かる。 拳銃特有の鉄臭さ、火薬の匂いがする。 「俺はルアード。訳あってお前のような殺し屋を殺している。そうだなぁ、殺し屋ハンターとでも名乗っておこう」 「……」 俺は動揺を露わにすること無く、ただただ静かに反撃のチャンスを待つ。 「おおっと! 野暮なことは起こすなよ! お前は1人だろうが、俺は1人じゃあない」 気配を感じ、左右や上に視線だけを動かす。 腰元まであるマントを着ており、男か女かは確認出来ない。 暗闇でも目が生きているのは、慣れとでもいうのだろうか、はっきりとは言わないまでもある程度見える。 「殺したいなら殺せ」 「ほおう、潔ぎが良いな。ならば、ご要望通り……といきたいところだがお前にチャンスをやろう」 「チャンスだと?」 「そうだ。俺はな、好きで殺し屋を殺しているわけじゃないんだ。雇われているんだよ、お前達殺し屋を殺すように」 「なるほどな」 俺は直ぐに理解した。 「察しが良いな。そう、お前に殺しの依頼が来るように、俺達賞金首にも依頼が来る。まあ要するに金だ」 賞金首。 それを聞いて疑問には思わなかった。 それは、俺のような殺し屋が狙うタ-ゲットが高い金を払って賞金首を雇っていると噂で聞いたからだった。 中には殺し屋が殺し屋を狙うということもあり、珍しい話ではなかった。 「結局、金に目が眩んだハイエナか」 「それはお前も変わらないだろう? 殺し屋。それに俺はチャンスを与えてやると言っている。生きるチャンスをな」 それでもその言葉が俺の心に響かなかったのは、殺し屋として生きることに少なからず後悔していたからだった。 「なんだその正気の無い目は。お前、本当に殺し屋か?」 「御託はいらない。殺すなら殺せばいい--?」 突きつける拳銃が頭から離れたことに気付く。 振り返り見たのは、マスクをした短髪の男。 屋敷から僅かに漏れる光に照らされた姿は、まだまだ若い青年。 「失せた。殺すのはもうやめだ。……だが--」 「っ! な、何、を!?」 油断。 していなかったわけではなかった。 それが出来なかったのは、殺すという禍々しい感情が消えた一瞬の隙だった。 「死ぬよりマシだろう? これはな、市場には出ることがない代物。通称、“モンスタートランス”」 俺の首に刺されたのは注射針。 ルアードは不気味な笑い声を静かにしている。 「おいそこ! 一体何をしている!」 その時、屋敷の門番らしき格好をした人間達が3人ほど走って来る。 「ちっ! 邪魔が! まあいい。殺し屋、お前は間もなく醜いモンスターになる。その時は、俺達賞金首のペットにしてやるよ!」 そう言い残してルアードと近くにいた者達は去っていった。 一度、離脱を! 俺は大樹の幹を交互に蹴り上げて行き、そして郊外へと続く軒並みからその場を離れた。 ーーそうしたことが昨夜あって、ルアードによって打たれた注射針で俺はモンスターの姿になっていた。 「俺がモンスター!? ……んな馬鹿なこと」 冷静な思考回路をしたいが、体のバランスが悪い。 ベッドの上で自分の体を確認する。 「一体、どんな怪物になったんだよ!?」 慌てふためき、自分が人間ではないことを確信してしまう。 手や足が明らかに人間ではなく、爬虫類のような姿形をしている。 慣れない体で洗面台に急ぐ。 「歩きにくい! なんだって俺がこんな目に!」 愚痴も言いたくなる。 短足をバタバタと動かす。 「あれ? 洗面台ってこんなに遠かったっけ?」 着かない。 スピードを上げても洗面台との距離は遠い。 いつもなら数秒足らずで着く場所も今の姿では2倍も3倍もかかる。 そうしてやっとのことで着いた洗面台。 しかし、見上げる鏡が高い。 「どうやってあんな場所……」 考える必要なんてなかった。 俺は殺し屋だ。 昨日大樹の幹を蹴り上げた要領で上がって行けばいい。 壁との距離を置いて助走をつけて壁を蹴り上げる。 「ふがあっ!?」 しかし、思い切り足を滑らせて勢いよく壁に顔を打ちつける。 殺し屋なのに、なんてざまだ。 べたりと俯せに倒れこんでしまうが、ググッと両腕に力を入れて立ち上がる。 「舐めんな!」 俺が殺し屋としてある程度有名になって来たのも、運動神経無くしては語れない。 際立って得意なことはなくても、俺は自身の長所を幼い時に既に理解していた。 それを伸ばすことで、殺し屋として生計を立てていたのは俺自身が決めたことだった。 左右の壁を蹴り上げて行き、スタッと洗面台に着地。 「さて、一体どんな怪物に--!?」 呆気にとられた。 頭からは小さな角が2本、それより大きい角が2本生えている。 口を開けば、ギラリとした鋭い牙。 胴体は鏡越しで見るとさらに短く、両手両足には爬虫類のような爪。 極めつけは大型のトカゲではないかと思わされる太い尻尾。 一応翼も付いている。 その姿はまるで-- 「恐竜!? いや違うな。これは--」 竜。 それもとてつもなく弱そうな子竜。 恐竜と見間違えるほど、目立たない小さな翼。 空を優雅に漂うことなど到底出来ないと思われる。 これはいわゆるモンスターという奴か。 子竜だから、まだ成長の余地はありそうだな。 と、さっそくモンスターの思考を始めていたことに首を左右に振った。
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