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一途な男
「いらっしゃい、今日は誰をご指名かな? なんてね、訊くまでもないっか……」
大きな荷物を大事そうに抱えて頬を染め、恥ずかしそうにうつむく常連客の倫周を前にして、フロアマネージャーの氷川はそう声を掛けた。
「あ……はい、あの……指名は……もしも塞がってなかったら……あの……」
モジモジとして、なかなか指名したいホストの名を言い出せずにいる倫周の肩を後方から、すっぽりとその全身を包み込むように現れたのはエスコート役の紫月であった。
「久しぶり! 倫ちゃん、今日も俺に逢いに来てくれたの?」
ここは男性客専門のホストクラブだ。
業界の中では少々値が張る方なので、まだ宵の口にはさすがに客の姿も少ないが、月が高くなり始める時分にはチラホラと人目を忍ぶようにして訪れる客の風潮も又、業界では珍しい光景といったところか。
表面上は酒と会話を楽しむ処、などと掲げているが、クラブ形式の店内の奥には個室なども用意されていて、いわば客の要望いかんによっては更に深い楽しみごとも可能な高級クラブであった。
又、エスコートするもされるも客の好み次第で、この店にはそんな要望に合わせたホストたちが常時三十人は詰めているといった規模だ。
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