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柳生ウォーリアーズ
あの世で放送されている「地獄プロレス(実際にはプロレスとは言い難いが)」は人気番組だ。
地獄のみならず、天界や魔界でも高視聴率だという。
名だたる神々にも人気が高い。たとえば、
他国からの災いを武威を以て防ぐ「武神」。
地に潜む邪なものを押さえ込む「剣神」。
国の平和を司る「軍神」。
少年を未来に導く「聖母」……などだ。
長寿番組である旅行番組(司会進行をマルコ・ポーロが務める)と同じくらい、人気のある番組だ。
今夜もリングの上に熱い炎が燃え盛るーー
「うおおあ!」
源九郎義経はロープの反動を利用して飛び上がり、本多忠勝の首に両足を巻きつけーー
首を折られまいとする生理的反応を利用して、フランケンシュタイナーで忠勝の巨体をリングに転がした。
しかし、本多忠勝は効いた様子もなく立ち上がってきた。
「化物か!」
義経は冷や汗に濡れた顔に笑みを浮かべていた。
「貴様、よくも俺の饅頭(まんとう)を食いやがったな!」
項羽はリング上で呂布と乱闘だ。
最強タッグの一角である「ディアボロズ(※ディアボロは悪魔の意)」の二人は、仲間割れで勝利を逃すことも珍しくない。
「……今だ張飛!」
「おう!」
関羽は張飛と共に飛びかかった。
関羽は「五虎将バスター」に項羽を固め、張飛は「五虎将ドライバー」に呂布を固める。
「「三國・鼎立(ドッキング)ー!!」」
関羽と張飛のタッグ「桃園ブラザーズ」のツープラトン技が炸裂した。
「いえね、ダイエットしたら、胸から小さくなっちゃって……」
春日局は試合開始前のインタビューにて、照れ臭そうに笑っていた。
夫の浮気相手を薙刀で斬殺したという話が嘘か真か、後世に伝えられている。
が、こうして話をしている限りでは、貞淑さの中に少女の魂を持つ、愛らしい女性であった。
が、リングに上がると人が違う。
「貴様の血で化粧がしたい!」
春日局は悪役(ヒール)の化粧を施しており、ほとんど鬼女と化していた。
リングでの設定では悪役(お色気も担当)の彼女によって「柳生ウォーリアーズ」の十兵衛と利厳は圧倒されていた。
「局様、お気を確かに…… ぶ!」
十兵衛は春日局の桃尻爆撃(フライングピーチ)によって場外まで吹っ飛んだ。
「つ、強い……!」
尾張柳生の利厳は、春日局の隠し持っていた栓抜きによって額を傷つけられ、負傷していた。
「切れろ、切れろおっ!」
春日局はリング上で派手なパフォーマンスだ。
口元は人を食ってきたかのように赤いメイクが施されている。
まさか彼女一人によって、柳生の名剣士二人が(本気ではないが)翻弄されるとは。
「……やるぞ!」
「おう!」
利厳と十兵衛は互いに相手を殴った。
これは心機一転のスイッチだ。
伊藤一刀斎と小野忠明による「剣客師弟コンビ」や、宮本武蔵と佐々木小次郎による「巌流島ドロップ」に対抗すべく手を組んだ両者だが、まだまだ覚悟が足りなかったようだ。
「ヒャッハアー!」
春日局は薙刀を持ち出して、リング上で振り回し始めた。
悪役ぶりが実に板についている。
無論、演技だ。多分。
「お見せしよう、無刀取りの妙技を!」
十兵衛は利厳を押しのけ、前に出た。
生前では春日局と親しかった十兵衛だ。
彼女を止められるのは、彼しかいないのだ。
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