桃園ブラザーズと春日局さま

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桃園ブラザーズと春日局さま

 マリー・アントワネットとエリザベス一世による三分間の小料理番組が終了し、今夜も地獄プロレスが始まった。  今夜の試合はタッグマッチーー  「桃園ブラザーズ」対「モースト・ビューティフルコンビ」の試合であった。 「シャオラアアア!」  リング上で烈火の気合いを放つのは、春日局だ。  彼女はビキニ風のリングコスチューム(暑いから)に薙刀を構えていた。  パートナーの巴御前も水着の上に鎧を着込むという、艶かしい戦装束姿だ。 「え、ちょっと待って」  桃園ブラザーズの一人、張飛は戸惑った。  男と女が試合を行う場合ハンデを設けるのは珍しくないが、彼は今夜の対戦相手の事は聞いてなかったからだ(酒を飲み過ぎていたから)。 「はああああ!」  春日局ーー外見は二十代半ばの見目麗しい美人ーーは、頭上に薙刀を旋回させた。  夫の浮気相手を薙刀で斬殺したという逸話が、嘘か真か後世に伝えられている。 「はい、はい、はあ〜〜〜いっ!」  春日局の薙刀による打ちこみの連続。  三発目は轟音と共に張飛の頭頂に打ちこまれた。 「……きっくう〜」 “あーと張飛、前のめりにダウーン!”  アナウンサーも興奮気味だ。  身長八尺以上(当時の一尺は約二十三センチ、約百八十四センチ以上か)、腕回り五十八センチという張飛。  その彼が薙刀とはいえ、一撃でダウンするとは。  もっとも、春日局も薙刀の刃が折れた事に目を丸くしていた。恐るべき張飛の石頭だ。 「春日!」  巴御前の言葉に、春日局は我に返った。巴御前は関羽に抱きつき、彼の動きを封じていた。 「う、うむ」  赤い顔を更に真っ赤にし、関羽は動揺していた。  タッグチームとしては最強の一角に数えられる桃園ブラザーズだが、関羽張飛そろって女性に弱かったらしい。 「いいくぞぉー!」  春日局は薙刀をリングに投げ捨て、コーナーポストに駆け上がった。 「ボンバア〜ッ!」  そのまま春日局は水着姿のまま、コーナーポストから後ろ向きに飛んだ。 “あーと、桃尻爆撃ー! 春日局様のフライングピーチが関羽様の顔面直撃〜!” 「……ぬは」  ダウンこそしなかったが、関羽は鼻血を流して巨体を揺らした。嬉しそうな顔をしている。 「ツープラトンよ!」 “あーと、春日局様の号令一下、二人で関羽様をブレーンバスターの姿勢に担ぎ上げたー!” 「グッバーイ!」 “ツープラトンのブレーンバスター炸裂う〜! 関羽様、リングに大の字でダウーン!” 「フォールよ!」  巴御前は関羽に、春日局は張飛に向かってボディプレスを敢行し、そのままフォールの体勢だ。 「わお……」  張飛は春日局の胸に押さえつけられて、動かない。 “ワン、ツー、スリィー! けっちゃあああ〜く! 春日局様と巴御前様のモースト・ビューティフルコンビ! 桃園ブラザーズを制した〜!”  ヒーローインタビューにて。 「男なんて同じ人類じゃないわ!」 「全ての男は私達の前にひれ伏すのよ!」  春日局様と巴御前様は興奮してインタビューに答えていた。一応、悪役(ヒール)なのだ。  そしてメインイベントが始まった。 “でかあああい! 二人の悪魔(ディアボロ)、呂布と項羽のディアボロズがリングに姿を現した〜!”  三国志最強の武将として名高い呂布。  身長は九尺(当時の一尺は二十三センチ、約二百七センチ)、出身はモンゴルらしい。  某横綱力士を例に出すように、人間離れした体力腕力を誇る。  項羽も体格は呂布と同等だ。「垓下の歌」で文学史にも名を残す知勇兼備の名将である。  それに対するはーー “平家打倒を成し遂げた両名! 源九郎義経と武蔵坊弁慶! チームますらお〜〜〜!!!!!”  義経は鎧を脱ぎ捨て、早くも本気モードだ。弁慶はすでにコーナーについている。  呂布と項羽の二人は仲が悪く、ようやく呂布が前に出てきた。  ゴングが鳴る前に義経は攻めた! 「んな!」  驚く呂布の眼前まで迫った義経は、そこで方向転換ーー  ロープに向かって飛び、その反動を利用して飛鳥のように呂布に飛びかかった。  そして両足を呂布の首に絡めて、全体重を乗せる。  呂布は首を折られまいと、前のめりになった。 “フ、フランケンシュタイナーだ〜! 呂布の巨体がリングに転がったー! そして今ようやくゴングが鳴ったー!” 「わ、若!」 「弁慶、こうでもしないとやつらは倒せん! 一ノ谷を思い出せ!」 「ぎ、御意!」 「代わろうか?」  項羽は身を起こしてきた呂布に声をかけた。 「何言ってやがる、試合はこれからだぜ!」  呂布はニヤリとして義経をにらむ。ディアボロズの二人は、仲が悪いようで仲がいいのかもしれない。  つわものどもが夢の跡ーー  今宵も胸を熱くする戦いのドラマがリングに繰り広げられる……  通販コーナー番組にて。 「本日紹介するのは、このロザリオです」  商品を紹介するのは天草四郎時貞であった。 「まあ素敵ですね」  相槌を打つのは細川ガラシャさんである。  たった数分の番組だが、マニアックな人気を得て長寿番組になっていたりする。  つわものどもが夢の跡……
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