3反 大地を起こす者たち

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 一度にあんなに土を動かせるなら、畑を耕すなんてあっという間に終わるんじゃなかろうか?  耕耘なんて、実際そんなに難しい作業じゃないし、ちょっと疲れるけど子どもにだってできることだ。  ……もちろん、鍬を使った土起こしだけど。あの頃に僕にも魔法が使えたらな~……  鍬を槍のように、少し低めの中段に構える。  そこからほんの少し切っ先(鍬も切っ先や穂先と言うのだろうか?)を上げ、そのまま力を抜くように振り下ろす。  鍬の先端に付いた重い刃が土に食い込んだ。  そのまま柄を立てるようにして軽く引くと、砕かれ、柔らかくなった土が刃の上に乗っていた。  そこからスッと刃を前に押し出すと土がその場に落ちる。  案外この瞬間が気持ちがいいのだ。最初は上手く落とせなくて、次の一振りが重くてしょうがなかった……  まだ小さい頃にやっただけだったが、意外と身体が覚えていたらしい。最初は自分でも少しぎこちない動きだと感じたが、三十分も続けたら以前の勘を取り戻していた。  それに、あの頃より体が成長したからか、すぐにへばっていた昔と違って休憩も挟まずに続けられていた。  固い土に刃を下ろして、鍬の柄を引き寄せて、土を落とす。たまに引っかかる固い根っこや石ころなんかは、作物にとって邪魔になるので畑の隅に投げる。  畑を耕すのはこれの繰り返しだ。  下ろす。引く。落とす。下ろす。引く。落とす。投げる。下ろす。引く。落とす……  黙々と作業を続けていたら、大方の部分は耕し終わっていた。さすがにちょっと休憩しようかと思ってふと横を見たら…… 「ぐぬぬぬぬ……」  真っ赤な顔をして、今にも零れそうな涙をこらえつつ、何かうなり声をあげながらこっちをじっと見つめるフルートがいた。  彼女の畑は、なぜか中央に鍬が刺さっているだけで、それ以外は最初と変わらず固い土のままだった。
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