3反 大地を起こす者たち

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 一生鉱山でタダ働きしながら静かに人生を終えるかもしれないと覚悟して、僕の意思とは関係なく挑まされた勝負だったが、驚いたことに結果は僕の圧勝だった。  途中から目の前のことに集中しすぎて気付かなかったが、フルートはあの後何度も魔法を使って耕そうとしたらしい。  その度に、畑が砂状になったり、ひび割れだらけになったり、沼のようになっていたとのこと。更に、毎回先生があっという間に元の状態へ戻していたとかなんとか……  最終的には魔法でなんとかすることを諦めたようで、鍬を一度振り下ろしたものの、そこで完全に負けを自覚したらしい。ちょうどその瞬間に僕が一息つこうとして、たまたま彼女の真っ赤な顔を見てしまった。  フルートはその後すぐに、小石を飛ばす魔法を僕に向かって撃ってきたので、そのまま彼女の反則負けということになった。()せない…… 「これでわかったと思うが、既存(きぞん)の魔法で農業をするのははっきり言って無理だ。水やりも広範囲にしなければならないが、水圧が強いと作物は簡単に駄目になるしな」  今日の授業はもうすぐ終わりらしく、先生が簡単に授業の振り返りをしている。  僕ら以外の生徒も同じように各自に割り当てられた畑を耕すことに挑戦していた。そういえば、僕とフルートは勝負になっていたが、先生が今日の課題って言っていたっけな……  みんなそれぞれ、まずはフルートと同じように様々な魔法を駆使して畑を耕そうとしたらしい。しかし、フルートと同じように、魔法ではまともにことができなかった。  その結果、とりあえず僕の真似をして、鍬を使って耕そうとしたのだが…… 「また、ただ作業を見よう見まねでやるのも難しいことは理解したな?」  そう、鍬で畑を耕すというのは、案外コツの要る作業なのだ。  力任せに振るっても土が飛び跳ねるだけで、余計に疲れる割にはあまり効果がない。  大事なのは余計な力をいれず、道具の自重(じじゅう)を利用して、最低限の動作で進めることなのだ。  ……まあ、僕も子どもの頃は全然できなかったし、おじさんに武術を教わっている時に改めて理解したんだけどね。  そんな訳で、全身を使って何かをすることになれていない他のみんなは、鍬を使っても耕耘作業がほとんど進まなかった。 「ちなみに、魔法で今回の作業をやるならこうなる」  物理最高! 俺強い! と自分に言い聞かせて自信を回復させようとしていたら、唐突に先生が何か始めた。  一冊の本を取り出してとあるページを開く。と同時に、畑やその上の空中に光が走り、複雑な紋様(もんよう)が描かれ始めた。  これが魔法陣ってやつか~……  光で描かれた陣が完成すると、地面が浮き上がり始めた。  畑の表面が、大体膝下くらいの深さまでの地面が浮き上がった。  そして突然突風が巻き起こり、地面をバラバラに砕き、そのまま風の力で土を混ぜ始めた。 「とにかく細かくすればいいってものでもないらしくてな、適度に大小様々なサイズの塊を均等に混ぜた方が良いらしい」  と、何でもないような顔をしながら、びっくり耕耘を続けている。  少しずつ風が弱まりながら、柔らかく混ぜた土がゆっくりと元の場所に降り立った。 「勢い強く地面に落ちたら結局押し固めてしまうからな。最後まで気が抜けない作業になる」  今日が魔法初見な僕だけでなく、クラスの生徒全員唖然(あぜん)としていた。  魔法って、凄い…… 「そんな魔法──」  一番最初に我に返って口を開いたのが、今日だけで何度叫び声をあげたかもわからないフルートさんだ。 「あんた以外できるかー!!」  そしてこれが、本日最後の雄叫(おたけ)びであった。
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