42人が本棚に入れています
本棚に追加
「これで今日の授業は終わりだ。そして、今日のメインイベント、アグリとフルートの勝負もアグリの勝利で決着、と……」
昨日の最後、先生はそういって授業を閉めた。
「ありえない……私が、こんな下民中の下民に負けるなんて……」
こっちは意気消沈中のフルートさん。
「さて、成り行きとはいえ勝負の監督を務めたことだし、一応確認しておくぞ?」
成り行き、だっけ? この人が率先して勝負事に誘導していたような?
「最初に取り決めた通り、このクラスではフルートよりアグリの方が上位、意見の対立等があった時は基本的にアグリの意見を優先的に採用とする」
「うぐぅ……」
あ、これ追い打ちかけてるだけだ。表情は変わらないけど、たぶん先生は楽しんでやってるな。
「更に、フルートは『勝利したらアグリを退学にする』と宣言した。つまり、勝者アグリにもフルートを退学にすることと同様の権利を持つこととする」
え!?
「な、ちょっと聞いてないわよそんなこと!」
「そうだ、今初めて言ったからな。俺はクラス内での立ち位置をはっきりさせるだけで良かったんだがな……余計な条件を増やしたのはフルート、お前自身だぞ」
「う、嘘……まさか私が、退学なんてそんな……」
「それを決めるのはアグリ次第だ」
二人の視線が僕に集まる。
先生は相変わらずよくわからないが、フルートはさっきまでと違って怯えたような目をしていた。まるで、ケガを負って一人取り残された動物みたいな……
「フルート、何かアグリに言った方がいいんじゃないか?」
「うう、ぐ……」
フルートはそのまま黙りこんでしまった。僕には永遠のように感じる、とても居たたまれない時間が過ぎた。
時間切れとばかりに、先生がため息をついた。
「アグリ、お前はどうしたい? 今は貴族も平民も関係ない。お前の好きなようにしろ」
そんな急に振られても困る!
「あ、あの、ええと……」
僕が口を開くと、キッと鋭い視線を感じた。もちろんフルートからの視線だ。
「目を逸らすな! ちゃんと見ろ!」
平民の習性か、思わず俯きそうになったところに、先生からの叱責が飛ぶ。
そうだ、おじさんにもよく言われた。
獣と相対した時、決して目を逸らしてはいけない。敵なら威嚇、そうでないなら親愛を目に込めろ。相手は何者か見極めろ、と……
改めてフルートの視線を正面から受け止める。
さっきまでと違って強い、とても強い目をしていた。獣にはない強さの眼、これはきっと意思の強さなんだ。
誰にも負けない、負けられない、そんなある種の悲壮感すら感じるほどの……それでいて、とても美しい瞳だった。
「僕は……」
最初のコメントを投稿しよう!