4反 氷雨降りて大地固まる

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 そんな訳で、昨日の約束をちゃんと守っているらしいフルートさんは、必死に魔法を放つのを(こら)えているみたいだ。  いや、そもそもこんなに気軽に魔法を飛ばさないで欲しいんだけど…… 「お、おはよう、ございます。本日はご機嫌うるわしゅう……?」  よし、なんとか挨拶できた! たしか貴族はこんな挨拶を交わすって聞いた気がする!  うん、たぶん合ってるはず! 「どう考えても、機嫌が麗しくないんだけど?」  なんか違ったらしい。 「はぁ~……昨日は悪かったわ」  なんと、昨日の様子からは想像もできない言葉がフルートさんから── 「平民と一緒にされるのは嫌だけど、貴族として一度結んだ約束は守るわ。だから……なんとか我慢するわ。……あなたと一緒にされるのは心底嫌だけど!」  う~ん、これはどうなんだろう? まあ、魔法は飛んできてないし、良いのかな? 「あ、ええと、はい。よろしくお願いいたしま、す?」 「なんで最後疑問形なのよ! はぁ~……もう、そのヘタクソな敬語もやめてちょうだい。このクラスではあなたが上なのよ? 上に立つならそれらしく、周りに敬われるように振る舞いなさいな」 「うえ、そ、そういうものなんですか? あ、いや、そうなの?」  いま、貴族にタメ口を使ってしまった! お貴族様に気安くタメ口で話しかけてしまった!! 「まあ、たとえあんたがどれだけ偉くなっても、私は絶対にあんたに敬語なんて使わないけどね」  あれ? そういうものなのか? まあいいか、とりあえず敬語じゃなくても死刑にならないらしい。 「よ、よろしく、ええと、フルート……さん?」 「フルートでいいわよ! 虫唾(むしず)が走るわね……まったく……よろしく、アグリさん?」  背筋に虫唾が走った。貴族様から、いや、フルートからさん付けで呼ばれるのは心臓に悪そうだ。  これ以上さん付けで呼ばれないようにするためにも、言われた通りにしよう! 「改めてよろしく、フルート」  たしか貴族や商人は、ってのをして心を開くんだっけ? 「こちらこそ、せいぜい国のため、私たちのために馬車馬のように働いてちょうだいね、ア・グ・リ!」  差し出した手を力強く、痛いほどの強さで握られた。  学院を出れば貴族と平民、ここではなぜか僕が上という不思議な関係……  立場の上下なんて本当のところはわからないけれど、僕とフルートの関係はこれで良いのかもしれない。  心のどこかでそう感じたのだった。
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