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そんな訳で、昨日の約束をちゃんと守っているらしいフルートさんは、必死に魔法を放つのを堪えているみたいだ。
いや、そもそもこんなに気軽に魔法を飛ばさないで欲しいんだけど……
「お、おはよう、ございます。本日はご機嫌うるわしゅう……?」
よし、なんとか挨拶できた! たしか貴族はこんな挨拶を交わすって聞いた気がする! うん、たぶん合ってるはず!
「どう考えても、機嫌が麗しくないんだけど?」
なんか違ったらしい。
「はぁ~……昨日は悪かったわ」
なんと、昨日の様子からは想像もできない言葉がフルートさんから──
「平民と一緒にされるのは嫌だけど、貴族として一度結んだ約束は守るわ。だから……なんとか我慢するわ。……あなたと一緒にされるのは心底嫌だけど!」
う~ん、これはどうなんだろう? まあ、魔法は飛んできてないし、良いのかな?
「あ、ええと、はい。よろしくお願いいたしま、す?」
「なんで最後疑問形なのよ! はぁ~……もう、そのヘタクソな敬語もやめてちょうだい。このクラスではあなたが上なのよ? 上に立つならそれらしく、周りに敬われるように振る舞いなさいな」
「うえ、そ、そういうものなんですか? あ、いや、そうなの?」
いま、貴族にタメ口を使ってしまった! お貴族様に気安くタメ口で話しかけてしまった!!
「まあ、たとえあんたがどれだけ偉くなっても、私は絶対にあんたに敬語なんて使わないけどね」
あれ? そういうものなのか? まあいいか、とりあえず敬語じゃなくても死刑にならないらしい。
「よ、よろしく、ええと、フルート……さん?」
「フルートでいいわよ! 虫唾が走るわね……まったく……よろしく、アグリさん?」
背筋に虫唾が走った。貴族様から、いや、フルートからさん付けで呼ばれるのは心臓に悪そうだ。
これ以上さん付けで呼ばれないようにするためにも、言われた通りにしよう!
「改めてよろしく、フルート」
たしか貴族や商人は、握手ってのをして心を開くんだっけ?
「こちらこそ、せいぜい国のため、私たちのために馬車馬のように働いてちょうだいね、ア・グ・リ!」
差し出した手を力強く、痛いほどの強さで握られた。
学院を出れば貴族と平民、ここではなぜか僕が上という不思議な関係……
立場の上下なんて本当のところはわからないけれど、僕とフルートの関係はこれで良いのかもしれない。
心のどこかでそう感じたのだった。
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