1反 伝説を育みし者

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「不合格です」 「なんでですか!?」  まあ、わかっていたことだが、世の中そう甘くは無かった。 「条件は魔法の素質がある人でしょ? ほら、僕にも少しは魔法の素質が、あの、あります……よね?」  入学試験は三段階に分けて行われていた。(そもそも僕は試験があるなんて考えてもいなかったけど)  第一段階、魔力テスト。  受験者の魔力量を測り、最低限の魔力を持っているかを確認する。  第二段階、適正テスト。  体力、学力、魔力の属性等を測定し、どの学部や学科に進めるかを判断する。  第三段階、面接。  二つの試験内容を受けて、入学後にどの学科へ進むのかを確認する。  そしてここは、第一段階の試験会場だ。 「だから最初に説明したでしょう。ここでは魔法を扱う“最低限の魔力量”があるかを確認すると。  いいですか? 魔力は元々微弱な量なら誰にでも備わっているんです。君のような平民も、そこいらの動物にだって宿っているんです」  知らなかった……てっきり魔力は選ばれた人間が生まれながらに宿している超貴重な何かだと思っていた。まさか人間どころか犬や馬、羊たちすらも持っているとは……  驚くべき世界の真実に感動しているところ、目の前に綺麗に装飾を施された杯を置かれた。  そう、さっきの試験のときにも渡された杯だ。  ──この杯を水で満たしてください。  そう言われて、さて水瓶はどこだろうと探していたら、ほかの受験者は杯を手にすると次々に杯の底から水を湧き出させていた。  僕を含めて数人がやり方がわからず周りを見回していると、試験官の人が教えてくれた。  なんでもこの杯は、魔力を注ぐと水を発生させる道具らしい。  なるほど。わからない。わからない時は訊くに限る。 「質問です! 魔力を注ぐってどうすればいいのですか?」 「あなたは魔力を流したことがないのですか? まあ、稀にそういう人もいるにはいますが……  この魔道具は魔力の変換効率も良いですからね。この杯に意識を集中するだけで、自然と魔力が杯につたわります」  なんという便利道具! さすが天下の魔法学院!  さっそく試してみる。杯を改めて手に持って意識を集中……意識を集中ってどうするんだ?  とりあえず強く握ったり、凝視したり、角度を変えてみたり、色々と試してみた。  出ない。  逆に力が変なところに入っているのがいけないのかも?  あれこれ考えている間に、他の受験者もこの部屋を去っていった。ただほとんどは、合格者とは別方向へ、である。  この試験、特に制限時間を決められていなかったな~と考えつつ、とりあえず杯を磨いてみた。 「あの、君もそろそろ──」 「ちょっと待ってくださいね! すぐにじゃっぽんじゃっぽん水を出してみせますから!」  それから更に二時間ほど粘った結果、杯からは水が湧き出ていた。数滴ほど…… 「この杯から一滴しか出せない程度ですと──」 「す、数滴は出ましたよ!」 「おほん、数滴しか出せないとなると、君の魔力は貴族どころか城下町の町民よりも低いかもしれません」 「え、魔力の量にお貴族様とかって関係あるのですか?」 「何を言ってるのですか? 街の結界や水源に水を満たすこと、その他全て貴族の魔力で(まかな)っているのですよ? それらを維持するのに必要な膨大な魔力を代々受け継いでいるのですから、平民とは大きな差があるのは当然ではないですか」  当然も何も、結界とか水源とか、全部初耳だった。 「没落した者たちが平民へと下り、その子孫を名乗る者がここを受けることはありますが、そのほとんどは杯に数センチ水を満たせる程度です。もちろんその程度では、この王立魔術学院に置くことはできません」  なんと、町の人たちにもそんなに水を出せる人たちがいたとは! もしかして花屋のお姉さんやパン屋のおっちゃんも…… 「ところであなたは“数滴”しか水を出せなかった訳ですが、もしや農村の出身ではないですよね?」 「えっと、それは~……」  そっと目を逸らす。しかし、じっと見つめられている。  ど、どうしよう。え、農民が受けちゃダメとか聞いてないし、それとも町民みたいな恰好しているのが問題? でも、今は一応町に住んでる訳で、ええと…… 「はい……両親共に貧しい農村で暮らしていました」  ああ、言っちゃった。馬鹿にされるのか、捕まって処刑にでもされるのか。よくよく考えたらこの人もお貴族様かもしれないんだよな。色々失礼なことを言ったかもしれないし、即座に打ち首とか言われてもおかしくないし、ああ、おじさんになんて説明しよう。あ、そもそも説明させてもらえるのか?  この世との別れ方を考えていると、目の前から深いため息が聞こえてきた。 「誠に遺憾ながら、このまま面接へ向かっていただきます」
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