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「だから! だからこそ、わざわざこの学科に来たってのに! なんで魔法を教えてくれないのよ!」
気弱なフルートは幻だったのかもしれない。
ほんの瞬きほどの間に立ち直った彼女は、いつものように不満をぶつけていた。なぜか僕に。
「ええと……この学科って農業科だよね? 魔法を教わるなら他の学科の方がいいんじゃないの?」
ここ、王立魔術学院は当たり前だが魔法を扱う学科がいくつもある。
魔力量や属性ごとに分けられるだけでなく、己の魔法を極めることに特化した学科、新たな魔術を生み出すための学科、魔力を高めるための研究をする学科等々……
魔術学部がこの学院の八割を占めているほど、魔術・魔法関連の学科には様々なものがある。
自分の魔法を磨くなら、普通はそういう学科に入るはず。
そう考えたところで、背筋に悪寒が走った。
フルートの冷え冷えとした視線が刺さる。
「……たのよ」
「え、なん──」
「だ~か~ら! 落とされたのよ! 二次試験で魔法を暴発させたら、全部の学科から!」
その日、極度の緊張状態で試験に挑んだフルートは、一次試験(魔術具の杯に水を満たすもの)は無事に合格したものの、二次試験で火属性の魔法を暴発させてしまったらしい。
巨大な火の玉が突如爆発したために、傍にいた試験官や同じ部屋に割り当てられていた受験者数人が火傷を負い、一時騒然としたそうだ。
そんなパニックを起こしたせいなのか何なのか、どの魔術系学科にも入学させられないと言い渡されたとのこと。
もちろん、そんなことを言われて黙っているようなフルートではなく、食ってかかるように抗議したところ、魔法を学びたいなら農業科に進むようにと告げられたそうだ。
「なんかあの先生、物凄い魔法使いらしいわよ。まあ、見ればわかるでしょうけど」
魔法素人の僕は見てもわからなかったけど。
「なるほど、だからあんなに毎日魔法を教えろと吠えて……言っていたんだね」
「そうよ! なのに、あのぼんくら教師ときたら! 全っ然魔法を教えないじゃない!」
「じゃあ、フルートは農業を学ぼうみたいな気持ちは──」
「そんなの、微塵もなかったわよ!」
食い気味に返事が返ってきた。そんなに怒り丸出しで食ってかかってきても、僕は先生じゃないぞ! あと、貴族は内心を悟られてはいけないって話はどこにいったんだ!?
「あんたは貴族でもなんでもないんだからいいのよ! 他の貴族に悟られるのが良くないってだけなんだから!」
そんな訳で、フルートの怒りの捌け口にされているらしい。
理不尽だ!
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