6反 文明の萌芽

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 なるほど、文字というのはてっきりこういう学校で習うものだと思っていたけど、お貴族様は家に教師を呼んで習っているのか! 「ちなみに俺みたいな下級貴族には、家庭教師を雇うお金なんてないからな。基本的に親や兄弟から教わっているんだ」  大柄な生徒が話しに割って入ってきた。  彼はファム。本人の言う通り下級貴族の生まれだが、他の生徒と比べると一回り以上大きく、立派な体格をしている。  上級貴族よりも平民に近いからか、話す雰囲気が町の人に近くて話しやすく感じている。  とはいえ、貴族ということには変わらないのでちょっと怖い。 「そうなんだ……へえ、教師を雇うのって、そんなにお金かかるのか……」  下級貴族といっても貴族は貴族、そこいらにいる町民以下の暮らしをしている僕なんかよりはずっとお金があるはずだろうに、それでも雇えないなんて……  もしもいつか家族ができたら、子どもに家庭教師をつければ将来その子はうはうは生活になるかも! という一瞬抱いた夢は、同じくらいあっという間に砕け散った。 「それに、どんなに優秀な教師を雇っても、一ヶ月やそこらで文字書きができるようになる訳ないでしょうが!」  フルートが話しを戻す。  やっぱりこの複雑怪奇な文字というものを習得するには、何年もかかるらしい。 「ん? そうか? 言語なんて三週間あれば大体理解できないか? ましてや、アグリは言葉自体は知っているんだし、三日もあれば文字くらい……」 「そんなことができるの……」  フルートの身体から冷気が伝わってくる。  急いで机の下に隠れつつ、座っていた椅子をフルートに向けて盾にする。 「あんたぐらいでしょうがー!」  突如激しい吹雪が彼女の周囲に巻き起こる。前とは違い、風自体は強くないが……とにかく寒い!  しかし、今回はちゃんと防げたぞと思い机から這い出そうとした。 「あ、あれ? 手が……」  冷気の発生源に向けていた木製の椅子が凍り付いていた。ついでにその椅子を掴んでいた僕の手まで…… 「おい、またアグリが被害者になっているぞ?」 「うそ、今のでも防げないの!?」  毎度の加害者であるフルートも、怒りを向けられたはずの先生も、ついでに他の生徒もみんな無事だった。  そろそろ魔法が嫌いになりそうだ。
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