7反 自ら種を播く前に

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「次は畝立(うねた)てと種播(たねま)きだな。これは全ての圃場(ほじょう)に同時にやるんじゃなく、各圃場ごとに順番に行う。また、植える作物によっては畝が必要ないものも多いからな」  圃場、つまり畑のことだ。学問として研究する時はなぜか畑や果樹園と言わず、全部まとめて圃場ということが多いらしい。  正直面倒だ。  連日のように農作業をしているからか、フルートを始めみんな疲労が溜まってきている。 「よっし! 今日も頑張ろう!」  ファムを除いて……いや、元気すぎないか? さすがに僕も、久しぶりの農作業で疲れているんだけど。  異様に元気そうな彼をなんともいえない気持ちで見ていたら目があった。  そしておもむろに力こぶを作り、 「鍛えているからね!」  ……まるで僕を含めて他の人は全然鍛えていないかのように、爽やかな声色で言い切った。くそう、旅に出ていた時は今よりもっと鍛えていたんだからな!  なにはともあれ畝立てだ。  初日と同じく(くわ)を手に作業を始める。  この圃場はダイズという豆を育てる予定らしい。そのため、畝の高さは10cm程度で幅は30cmとのこと……ええと、たしか10cmが(こぶし)の横幅より少し長いくらいだっけ?  植える作物によって、畝の高さや幅は少しずつ変えている。今回はダイズ用の畝なのでこのサイズということだ。 「なるべく同じ高さに同じ幅でまっすぐに立てるんだぞ~」  先生のやる気の抜けるような激が飛ぶ。  畝を立てるというのは、鍬で土を寄せて回りより少し高くする作業のこと。  詳しくは知らないが、これで育ちが良くなる植物が結構あるんだとかなんとか……  畝を作る予定の箇所のすぐ横に、耕す時と同じように鍬を軽く振り下ろす。そして引き寄せた土を鍬の刃に乗せたまま少し持ち上げる。そして畝にしたい部分までずらし土を落とす。  まずは右側をある程度土寄せしながら進み、そのまま後ろを向き反対側の土を寄せながら同じ距離を進む。そうすると両側から同じくらいの土を寄せられ、小さな連山のようなものができる。その山の頂点を鍬の刃の平らな面で軽く押すようにして平たくすれば完成だ。  少しずつ進みながら、畝が曲がっていないかをこまめに確認しながらその都度修正しつつ畑の端まで畝を立てていく。 「こんな作業、やってらんないわよ!」  今回もフルートさんは咆哮を上げていた。少し覗いて見ると、ちょっと作られた畝の真ん中が崩れていた。たぶん途中でこけて、せっかく作った畝を壊しちゃったんだろうな……  視線を悟られたのか、いつの間にかフルートがこっちを向いて睨んでいた。  城壁すら射抜きそうな視線を避けるように顔を逸らす。  すると── 「うおりゃー!!」  凄い雄叫びを上げながら、これまた凄い速さで作業を進めるファムの姿がそこにはあった。でも、あれだと…… 「おおい、威勢よく作業を進めているところ悪いがファム、今までやった分は全部やり直しな」 「なんですと!?」  先生が無情にもそう言って彼の努力を無に帰した。 「最初に伝えた通り、畝の高さは10cmだ。んで、お前の畝の高さはどれくらいだ?」  少し離れているけど目算でも30cm近くありそうだ。畝横の、土を寄せるために掘り返した部分に立っていると膝のあたりまで畝に隠れている。  これでは明らかに高すぎだった。 「ええと、高すぎてはダメなんでしょうか!」 「実験して確かめたことはないが、恐らく風の影響を大きく受けやすくなるだろうな。  あと、せっかく撒いた肥料が畝の下の方に埋まってるぞ。肥料はいわば植物の食料だ。芽が出てすぐに必要となるのに、種から大きく離れちゃ意味ないだろう?」  なるほど、そういう問題があるのか…… 「あと、畝がガタガタになってる。高さも幅もバラつきがあるし、畝自体が曲がっているぞ。はい、やり直し」  そう言ってまた拍手を一つ打つと、ファムの畑が授業始まりの状態へ戻った。
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