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「さて、これから播種作業を始めるわけだが……昨日も言ったように、ここから先は取り返しのつかない作業が多い。理由のわかるやつはいるか?」
昨日の終わりでは放置されていたけど、今日はちゃんと教えてくれるらしい。
案の定誰もわからないらしく、誰も手を挙げなかった。もちろん僕も……
「……ふむ、どう説明したものか。おい、アグリ、種を播いた後にこの前みたいな畑を元に戻す魔術を使ったらどうなると思う?」
いきなり振られた! いや、だからわからないって!
みんなからの注目が集まる。ええい、とにかく思いつくままに答えるだけよ!
「ええと、その……種がどこにあるかわからなくなる、とか?」
「そうだな。さすがの俺でも、土と種を正確に仕分けるような魔術は生み出せていない。故に、元の更地に戻したが最後、どこに種があるのか誰にもわからなくなる」
ほっと一息つく。とりあえず変な答えを言ったわけじゃあなさそうだ。
「他にもあるな。動物とは大きく異なるが、植物も同じ生物、命を持つものだ。損傷が激しければ当然命を失う。失われた命を戻すことは禁呪でも用いない限り不可能だ」
その言葉にみんな目を見開く、僕以外が……
「ちょっと、死者蘇生は魔法でも不可能なんじゃなかったの!? え、そんな禁呪とか、おとぎ話でしょ? 現実にそんなものがあるわけ……」
なるほど、そういうものなのか。いまいち魔法でどこまでのことが実現できるのかわからないと、先生の言葉に驚くべきなのかもよくわからない。
フルートの追求に、少し目を逸らせつつ先生が答える。
「あ~……そういえばこれは機密事項だっけか……まあ、あれだ。そういうおとぎ話のような奇跡を用いて、全く割に合わないほどのとんでもなくでかい代償を払えば稀に成功することもあるかもしれないって話だ」
フルートのような上級貴族でも知らないような、重要な機密がさらっと漏れたらしい。
「そうだな、うん。それほどの代償を払って作物を蘇らせる馬鹿はいないからな。くれぐれも魔法を暴発させて燃やしたり、細切れにしたり、すり潰したりするなよ。特にフルート!」
何かを誤魔化すように早口にまくしたて、ついでにフルートへの注意も付け足している。
対するフルートは、何か言いたげではあるが注意されることに心当たりがあるからか、歯ぎしりするだけに留まっていた。
……なんかちょっと火がバチバチしてるのが見えてるけど。
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