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なんやかんや色々とあった気がするけど、何はともあれ播種作業が始まった。
取り返しがつかないと先生は脅すものの、正直種播き作業自体はそんなに難しいものではない。
畝の真ん中あたりに適当な量を適当に埋め込むだけだ。普通は……
「いいな、今回はどう育つかを確認する目的がある。だから一粒撒いたら間を30センチ空けて次の種を播くように! 芽が出ないやつもあるから念のために一ヶ所につき数粒撒いておけ!」
なんか細かい注文が入っていた。
「あ、あの! 先生、30センチってどれくらの長さ、でしたっけ……」
今までの旅生活ではあまり気にしてこなかったが、町では、特にお貴族様の間では細かく分かれた数の数え方がたくさんあった。
長さだけでもセンチだのミリだのメートルだの……それに広さ、重さ、水の量まで知らない数え方をする。
水の数え方なんて、コップ何杯、桶に何杯、水瓶で何杯ということがわかればいいと思うんだけどな……
「そうだな、ふむ、これでいいか」
近くに落ちていた長い木の枝を広いつつ先生はなにやら始めた。
魔法を使って(たぶん魔法だろう)、木の枝の皮を剥ぎ、そのまま何かの柄に使えそうなほど綺麗に、真っ直ぐに整えた。
そして、今度はとても小さな火を出して(これもおそらく魔法なんだろうな……)、細い焦げ跡を枝に対して垂直に何本か刻んでいく。
「この線と線の間が大体10センチだ。30センチなら、端から3本目の線までの長さってことになる。まあ、およそだがな。そこまで細かく測ることもないだろうからこれで十分だ──」
「先生! 私にもそれくださいっす!」
プラウが食い気味にねだってきた。他のみんなも、言葉には出さないがこの棒を欲しそうに見つめている。
「いや、アグリはまだ長さの単位をほとんど知らんだろうからいいとして、お前らは普通に目算でわかるんじゃないか? 自分で作ればいいだろ」
先生の言葉に、プラウが深い、とても深いため息を吐いた。
「先生、それはほとんどの人には無理っす。目算でそんな正確に印をつけるのも、魔法で精緻な加工するのも無理っす、です……」
どうやらいつもの先生のスゴ技だったらしい。
そして結局、先生はその後一瞬で人数分の同じ棒を作り出してしまった。他の棒と並べてみたが、僕の目には寸分の狂いもなく同じ位置に印が刻まれているようにしか見えなかった。
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