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そんな訳で、今日はどちらかというと先生が原因で作業が少し遅れていった。
いや、あの棒がとても役に立っていたので、結果的には早く終わったのかもしれないけど。
「おし、じゃあ最後にジャガイモを植えるぞ!」
心なしか先生が少しわくわくしているような……
それにしても、ジャガイモか~……知らない食べ物だ。
ここまで畝一本ごとにダイズ、レンズマメ、ヒヨコマメを播いていった。
種、というか豆を土に軽く押し込むようにして数粒播き軽く土を被せる。30センチ測った先でまた同じように播き、測り、播き、その繰り返しだ。
途中休憩をはさんだりフルートが叫んだりはしたけど、作業自体は誰でもできることなので大きな問題は無く終えられた。
先生が何度も念を押したからか、今回はフルートも他のみんなも魔法は使わなかったしね……
「誰か、今までにジャガイモを食べたことあるやつはいるか?」
先生が手に茶色い塊を手に尋ねる。
僕が知らないだけでお貴族様は日常的に食べているものかと思ったら、どうやらみんな食べたことないものらしい。
「それが、ええと、ジャガイモってやつなの? ずいぶん大きな種なのね」
フルートが興味深々に覗き込んでいた。
先生が持つジャガイモらしきものは、茶色く滑らかな皮をした、トマトよりも小さいくらいの少し歪な形をした物体だ。
これを畑に植えるつもりのようだが、フルートが言う通りこれで一つの種なのだとしたらとても大きい。いったいどれだけ巨大な作物が育つのだろうか……
「おお、良いところに気付いたな。これはある意味種みたいなものだが、おもしろいことに地中にできる種だ」
「種が、地中に……?」
相変わらずところどころ端折って話す、わかりにくい先生の説明にいくつか追加の質問をしてわかったことをまとめる。
ジャガイモとはこの種の部分(イモというらしい)を食べる作物で、これは地下の根っこだか茎だかが大きく育ったものらしい。
根っこが大きく育つ作物だけなら他にもダイコンやカブがあるので、何が珍しいのかわからなかったが……
「凄いのはここからだ。なんとこのジャガイモ、一株からこういうイモがいくつも鈴生りに育つんだ!」
大きく育った根を食べる作物は基本的に、一粒種を播いたら一本の根が育つ。それなのにこのジャガイモという作物は、一つの種からいくつものイモが収穫できるとのこと。
一本の作物から取れる収穫量が、他の作物よりずっと多いということになる。
更に、栄養豊富でコムギやトウモロコシの代わりに主食として使えるとかなんとか。
そして、最大の特徴がこのイモ部分がそのまま種としても使えることだ。
ジャガイモも普通に花を咲かせて小さな種を作るらしく、そこから育てることもできる。しかし、普通の種というのはどうしても小さく、成長が遅い。
豆のように大きい種子の方が種の中に多くの栄養が詰まっているので成長も早い。そして、小さな種と違いちゃんと芽が出るものの割合が大きいらしい。
つまり、種が大きい方が早く、確実に成長してくれるものなんだとか……
「他にもいくつか利点があるが、大体のことは理解してもらえたか?」
「大体は、たぶんですけど……」
ちなみにここまで理解するのに数えきれないほどの質問を重ねた。何も訊かないと「見ての通りだ」で終わらせかねない状態だったのだ。
いや、この物体見ただけでそこまでの可能性を感じ取るのはむりですよ?
そうしてまたまた先生に時間を取られた後にジャガイモの植え付けもやり、今日の授業は無事に終わった。
この頃から、先生の有能だけどポンコツっぷりが如実に表れてきていた気がする。
ちなみにその後、雑草取りの実習等もあり畑に来たところ、妙に鳥が多く集まっていた。
そしてマメ類を植えたところに何かほじくったような跡があり……
「ねえアグリ、もしかしてあの鳥たち、私たちが植えたマメ、食べてたりしないわよね?」
荒れ狂ったフルートをなだめて、魔法を撃ってこれ以上畑に被害が出ないようにするのはとても大変だった。
本当に、本当に……
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