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「なんにしても試してみないことには……ん? なんだ、まだいたのか?」
あれから十分は待ったのにこの扱い、怒ってもいいかもしれない。
「いますよ! 結局僕はどうなるんですか!? 合格ですか、打ち首ですか、切腹ですか!?」
「切腹? したけりゃ勝手に、いや、それは面倒だ。そうだった、お前は受験しに来てるんだったな。
まあ、俺たちには無い発想や知識があるのは確からしい。
合格だ。来月からここに通ってもらう。詳しくはこの書類の通りだ」
「……え? なんて言いました? 打ち首じゃなくて、合格?」
聞き間違いだろうか? もしくは夢かもしれない。頬でもつねる?
「当たり前だろう。ここは処刑場でも裁判所でもないんだからそんな命令は下さん。それとも、辞退するのか? また探すのは面倒なので却下だ」
「し、しませんよ、辞退なんて! え、本当に? よし、よし! やった! 今度こそ僕の伝説的大活躍のスタートだ!」
理由も何もよく分からないが、どうやら僕は認められたらしい。この学院に、王立魔術学院で学ぶにふさわしい人間だと!
「勝手に盛り上がっているところ悪いが、今すぐ実験をしたいんだ。邪魔だから出てけ」
「あ、すみません。ところであの、一つおききしたいのですが……この紙って何が書かれているんですか?」
「何って、見たままだが。おい、まさかお前、字が読めないなんてことは……」
「あの、文字って学校で習えるってことは聞いたことがあるんですが……」
あれ? ここも学校じゃなかったっけ?
「……まあ、農村の出じゃそういうものか。むしろそれでよく受験する気になったな。わかった。詳しい説明は後で使いの者をやるから口頭で説明を受けろ」
説明は終わったとばかりに背を向けて何やら準備を始めたので、僕も“町にある家”へ帰ろうと歩き出す。
「おお、そうだ。まだ名前をきいてなかったな。お前、名はさすがにあるよな?」
さすがにムッとしながら振り向く。
「もちろんありますよ、アグリという立派な名前が!」
「そうか……では、アグリ」
さっきまでとは違う厳かな言葉で名前を呼ばれ、思わず背筋が伸びた。
「改めてこの学院への入学を許可する」
「はい!」
それから少し表情を崩して、優しい笑顔でつづけた。
「ようこそ。王立魔術学院、生産学部農業科へ」
そうして僕は、初めて自分が身を置く学科を知ったのだった。
え? 農業科? 魔法は?
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