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2反 始まりは稲妻と共に
王立魔術学院。
あまたの偉大な魔術師を輩出するだけでなく、魔法を操るための補助具、魔力で動く装置、魔術的処理の施された薬品等、魔法と密接に関わる道具の研究を行っている。
それらの研究にはもちろん魔術師が大きく関わっている。むしろ魔術師にしかできない研究といってもいい。
そこで生み出される様々な道具は時に魔王との戦争に使われ、時に街の維持管理に使われ、時に人々の健康や幸福のために使われる。
一人の偉大なる魔術師が一万人を救うことは稀である。
しかし、一つの偉大な発明が十万を超える人々を救うことは多い。
そんな偉大なる発明、あるいは発明家を生み出すために存在しているのが、王立魔術学院の『生産学部』である。
今、魔術界における最も新しい、そして最も偉大な歴史が刻まれようとしている。
そう! これから幾多の新技術を発明し、数えきれないほどの人々を救うことになる空前絶後の発明王、アグリ様が本日初登校するのである!
この記念すべき伝説の一ページ、教室の扉を開けようと手を伸ば──
教室の扉が吹っ飛んだ。
何が何だかわからない。
教室に入るためにドアノブへ手を伸ばそうとしたのだ。しかし、一瞬変な音がしたので一歩横にずれた瞬間、扉が目の前を横切っていったのだ。
「ったく、燃やすなとは言ったがこれじゃ被害があんまり変わらないじゃないか……お? ようやくの登校か。そんなところで突っ立ってないで早く教室に入れ」
この前の威圧感満載な先生だ。今日もあのローブを着て威風堂々としている。扉が吹っ飛んできた説明は無いらしい。
不可視の威圧感を押しのけるようにしながら先生の後ろについて教室に入る。
「おうお前ら、今日は予定を変更して最後の新入生を紹介する。いい加減さっさと機嫌直して座れよ~」
おずおずと部屋の中を覗くとそこには、話に聞くのと同じような教室の風景が広がっていた。
いくつも並ぶ机と椅子、前方には一段高くなった場所、そこに教卓というらしい高い机が鎮座ましましていた。
さらに、僕と同じくらいの年の男女が数人いる。ただ、みんな明らかに僕より小綺麗な恰好をしていた。
制服として用意したローブは基本的には同じデザインだが、素材が明らかに違っているのだ。なんかこう、つやつやしているのだ。
服だけでなく髪や肌も、僕やおじさんたちと違ってつやつやしていた。
ただ不思議なことに、真ん中で立っている女の子以外は教室の端っこに寄っていた。そして、その少女はうつむきながら肩をぷるぷる震わせていた。
何はともあれ、始めの挨拶が肝心だ。育てのおじさんからのありがたいアドバイスだ。
とにかく堂々と、そして少しでも礼儀正しそうにしろ。でないと今後ずっと嘗められるぞ、と。
「は、初めまして! 僕はア──」
「そんな下民なんてどうでもいいから……」
昨日からずっと考え続けていた自己紹介が、真ん中の少女に唐突に遮られた。
不満を込めた視線を向けると、少女の身体からバチバチと音を立てながら何かが出ていた。
「いい加減私に魔法を教えなさーい!!」
その時、僕の身体に初めての衝撃が走った。そう、まるで雷に打たれたかのような、突然全身が弾かれてすぐ後に痺れるような痛みが──
「おい、こいつは魔法素人だぞ。そんな奴がいる中で雷魔法ぶっ放す奴があるか! ああ、のびちまった。まったく……」
そう話す先生の言葉を聞きながら意識が遠のいていった。
そっか~、本当に雷に打たれたのか~……
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