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「なんだ、起きてるじゃないか。さすがに痺れもとれただろ。ほら、授業するぞ。さっさと教室に戻れ」
僕がここに至るまでの人生をじっくり振り返ってると、いつの間にか先生が来ていた。
「あ、あの、さっきは何が起こったんですか? なんか突然雷に打たれたような……」
「ああ、そうだな……まあ、色々あってな。あいつ、毎日なにかと俺に魔法をぶっ放してくるんだ。今回は雷魔法だったんだが、その余波がお前にも当たったって訳だ」
なんと実はあれで余波だったらしい。今は痺れも残ってないみたいだけど、意識が吹っ飛ぶほど凄かったぞ。うん、やっぱり魔法はすごいんだな!
教室に戻る道すがら詳しく訊いたところ、教室の扉が飛んできたのもどうやら彼女の仕業らしい。
毎日彼女が何度も先生に攻撃するんで、他の生徒も慣れたらしく安全圏に離れつつ防御魔法を使ってるらしい。おお、やっぱり防御の魔法もあるのか……
「ってことで、お前にもとりあえず防御魔法を覚えて……いや、無理か。魔力が足りないな。まあ、机の下にでも隠れておけば大丈夫だろ」
「え? 無理なんですか!?」
「ああ、一次試験の結果を聞いたが今のその魔力量じゃあまず無理だ。たとえ防御魔法をはれたとしても、さっきの余波すら防げないだろうな」
「嘘!? え、で、でも鍛えたらなんとかなります、よね?」
「まあ、死ぬほど頑張れば数年でなんとか……だけどお前、それ習得するまで教室来ないつもりか? ただでさえ入学が一か月遅れているのに?」
「そ、それは……」
僕の初登校は今日この日。だけどクラスの雰囲気を見てわかる通り、入学式はもう一ヶ月も前に終わっていた。
何故か? 僕がこの学院に通うために準備しなければならない物があったからだ。その準備になんと一ヶ月もかかったのである。
そう、制服だ。
この学院では、所属する学部や学科ごとに細かい差異はあるものの、基本的なデザインが同じローブを生徒全員が羽織る決まりになっていた。
ただ問題なのが、そのローブは各自が自分で用意するということだ。
そもそも、この学院を受験する時点で自分が合格するかどうかほとんどの受験生は理解しているらしいのだ。
貴族の人は生まれつき高い魔力量を持っているから当たり前に合格するし、それ以外の人も大体の魔力は日々の暮らしで知っているものなのだとか……
なので受かる人は受験する前から作っているのが常識となっていて、受験は最後の準備という感覚らしい。
しかも、身内に魔術学院の卒業生が一人もいない人の中で、一次試験を合格するほどの魔力を持つ受験生はまずいないようだ。
僕も結局、普通の合格基準で考えれば到底及ばない魔力量らしいので、その判断は正しいのかもしれない。
「ふむ、まあ一ヶ月余計に時間を使っただけあって質の良いローブだな」
ちらりと僕のローブを一瞥してそう呟いた。
「ど、どうも……です」
そっと手で触れてみる。今まで着たどんな服よりも滑らかな肌触りがした。思わず頬が緩んだ。
このローブが僕にとって初めての新品の服だった。
おじさんとは長いこと旅暮らしだったうえ、特にお金持ちという訳でもなかったのでいつも中古の服しか持っていなかった。
もちろんそれでも、村で暮らしていた頃よりはずっと立派な服だけれど……
最初は制服のローブも中古でそろえようと思っていたが、普通の服とは違いどの中古服屋へ行っても扱っていなかったのだ。
それで新品のローブを作ることになった。
中古の服しか知らなかったので驚いたけど、なんと新品の服は採寸して布や糸も全部選んで作ることが多いんだとか! 学校の制服のような特殊なものは特に……
そういう訳で、このローブを作るためになんと約二ヶ月もかかってしまった。
新品の服なんて大商会の大旦那やお貴族様ぐらいしか着ないものだと思っていたので本当に驚いた。
そうだ、僕にはこのローブがある! さっきは何を怯えていたのだろうか。ちゃんと新たに作ったのだ。それこそお貴族様と同じように!
さあ、改めて自信を持って教室へ向かおう!
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