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「二ヶ月? そのだっさいローブに?」
心が折れた。
教室に戻ったらさっきまでの嵐はまるで無かったかのようにみんな整然と席に座っていた。
ただ、教室の扉もなかった。魔法でも扉の修理なんかは簡単ではらしい。
そこで今度こそ自己紹介をさせてもらった。次またどんな魔法が飛んできて邪魔されるかわからないからと手短にまとめたが、予想に反して魔法は飛んでこなかった。
しかし、入学が一ヶ月も遅れた理由を説明したところ、先ほどの言葉のナイフが飛んできたのだ。
しかもまた、例の少女からである。
「おいフルート、ださいはないだろう。生地は丈夫だし、余計な装飾もない。実に農作業向きじゃないか。実用的と言ってやれ」
「ふん!」
先生、あんまりフォローになってないです。
ついさっきまで輝いて見えた自慢の新品ローブが、急にいつものボロ服のように思えてしまった……
教師からの追い打ちに心どころか足腰まで砕けそうになりつつも、目の前にいる女の子を観察する。
たしかフルートと呼ばれていたような……
黄金色の長い髪を後ろでまとめ、威嚇中の野生動物みたいに盛っている。
あまり外に出ないのか、透き通るように白い肌をしているが、頬は綺麗にほんのりと紅が差している。
新緑を思わせる鮮やかな緑色をした瞳が、燃えるような鋭さを持って僕の隣にいる先生のことを射抜いてる。
僕の自慢だったローブをダサいとこけにしたが、それも納得してしまうほど立派なローブを纏っていた。
生地自体がなんかもう輝いて見える。黒いのに光沢があるのだ。
更にローブの裾や首回りの部分にも、赤や金の糸で複雑な紋様が描かれている。
いかにもお貴族様らしい、上品なのに目を引き付けて離さない、思わず見惚れてしまいそうな姿だった。
「生意気な目つきね。今すぐその目を潰すか死ぬか選びなさい」
見惚れるだけで死を迫られるとは思わなかった。
お貴族様の命令は平民の自分には拒否することが難しい。
本当に目か命を諦めなければならないのかと、この場で一番権力を持ってそうな先生にすがりついた。
「おいおい、平民だからって同級生にいきなり喧嘩を売るんじゃない。一応ここでは在学中は家の身分に関係なく接するという建前があるんだからな」
建前という言葉に少し不安を覚えつつも、それならば命令に従う必要はないなと脂汗をぬぐいつつ顔を上げた。
「ふん、農村上がりの下民と同じに扱われるなんて虫唾が走るわね!」
上げた顔を即座に下ろした。いくら同じ学生になったとはいえ、お貴族様に嫌われるなんて命がいくつあっても足りない。
どうか無事に生きてここを出られますように。
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