ソウル・ヨンサン(龍山)1952年

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 やがて、戦況は悪化した。呉の郊外には強力な高射砲があったので、B29の爆撃機編隊も近寄らず、街は爆撃を免れていた。  ある夏の朝、北の空で何かが光った。次に轟音があり、窓や戸がガタガタと揺れた。広島に原爆が落ちたのだ。  戦争が終わると、アメリカ兵が大挙して来た。英語をあやつるアケミは通訳として忙しくなった。  朝鮮が独立すると聞くと、アケミは海を渡り、祖国を目差した。しかし、連合国統治の朝鮮は南北に割れていた。  南の政府が領土に不満を抱き、津島へ軍事侵攻を企てた。軍を朝鮮海峡側に集めて、北との境界線側が手薄になった。そこへ、北が進撃して来た。南側の守備隊は崩壊してしまった。  北側は中国共産党軍とロシア、南はアメリカ軍を主にする戦い。日本を負かしたはずの連合国が割れ、朝鮮半島で戦う図式。  混乱の中で、女衒のキム・デジョンと会った。呉の娼館で培った手練手管と英会話の芸を生かし、連合軍の兵を相手にする娼婦を集めた。  他の仕事を志した時期もあったが、めぐりめぐって、やり慣れた仕事にもどっていた。日本なまりの言葉では、朝鮮人相手に普通の商売はできない時代になっていた。  アケミは遣り手として女たちを束ねる。  1948年の建国以来、法律の上では、韓国では売春が禁じられていた。しかし、戦時下であり、全ては黙認されていた。
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